<開催報告>SRセミナー2024 第4回「12月7日は『持続可能な社会責任公共調達の日』!」
SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)は、目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」(持続可能な消費と生産)内のターゲット12.7として、「国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する」を掲げています。
NNネットでは、多様な団体と連携しながら、持続可能な社会責任公共調達の取り組みを促すため、ターゲット12.7にちなんで、12月7日を「持続可能な社会責任公共調達の日」とすることを、昨年から提案しています(注1)。今年も、必要な行政の施策のあり方や、その働きかけ方等について、4名のゲストにお話しいただきました(12月6日(金)開催/ご参加者約25名)。
(注1)昨年のセミナー抄録はこちらから。
冒頭、進行役を務めた川北秀人(NNネット幹事、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)から、趣旨説明と併せて、2013年に施行された障害者優先調達推進法について、国・都道府県・市町村と独立行政法人による2022年度までの10年間の累積調達実績額が1780億円であること、うち7割超が市町村による調達であること、また、清掃・施設管理が3割超、印刷が15%弱であることなどが報告されました。
◆発題①「地方創生SDGsローカル指標とグリーン購入」(グリーン購入ネットワーク 理事・事務局長 深津学治氏)
来年、設立30周年を迎えるグリーン購入ネットワーク(GPN)は、商品選択の指針となるグリーン購入ガイドラインの策定や商品データベースの運営のほか、環境省の事業を通じて、地方自治体のグリーン購入実態を毎年調査してきました。また、取り組みをさらに促すために、地方自治体のグリーン購入ランキングも公表しており、全国の地方公共団体(都道府県・市区町村計1788)を対象とした2023年度調査では、北海道と長崎県が満点、域内の市町村を含めた都道府県別のランキングは1位が東京都、2位が神奈川県という結果でした。また、全国の平均点は16.9点(100点満点中)で、全体の68%にあたる1240自治体が平均点以下でした。
SDGsに取り組む全国の地方自治体が、目標達成に向けた進捗状況を計測するための指標として、内閣府が2019年に作成(22年改定)した「地方創生SDGsローカル指標リスト」のデータソースとして、このランキングが採用されたことから、SDGsと関連付けた取り組みが進むことを期待しています。GPNは、調達方針策定のための手順やマニュアルに関する情報・事例の提供等を通して、今後も地方自治体のグリーン購入を支援していきます。
◆発題②「印刷業界独自の社会責任公共調達の働きかけの経過と課題」(全日本印刷工業組合連合会 常務理事[元・SR調達研究部会部会長] 江森克治氏)
47都道府県印刷工業組合を傘下とする全国組織である全日本印刷工業組合連合会(全印工連)は、デジタル化にともなう印刷市場の縮小への対応策として、業界団体としては日本初の「全印工連CSR認定制度」を2013年にスタートしました。しかしながら、中小印刷業がCSRを推進するには、最大顧客である行政における調達基準の見直しが不可欠です。持続可能な公共調達についての調査・研究を行う中で、SDGsをベースとして、官民が協力して地域の課題を解決していく取組みが有効ではないかと考えました。
たとえば、多くの地方自治体で「印刷物の著作権は発注者に帰属」「著作権は納品時に発注者に無償提供」という取引条件が見られますが、官公需取引における著作権の適切な取り扱いについて全印工連が調査し、議連を通じて中企庁に要望した結果、2017年度より「コンテンツ版 バイ・ドール契約」の奨励等が「中小企業者に対する国等の契約の基本方針」に明記されました(注2)。今年から横浜市では、自治体として初めて、コンテンツ版 バイ・ドール条項入りの契約約款の検討に入っています。
また、和歌山県印刷工業組合は、もともと組合員にメディア・ユニバーサルデザイン(MUD)(注3)の資格取得を奨励していましたが、県人権啓発センターの広報誌にMUDが採用されたことをきっかけに、県本体の入札仕様書にも「MUD検定合格者を有すること」と明記される等の広がりを見せています。
全印工連は、今年度SR部会を設けて、官民共創の関係づくりの調査・研究を進めており、行政の単なる予算削減の手段として共創が利用されるようなことがないよう、来年度をめどに手引書を作成する計画です。
(注2)参考:「官公需における印刷発注では 著作権の権利範囲を明確化して財産的価値に留意しましょう!」
(注3)さまざまな情報が高齢者・障がい者・色覚障がい者、外国人などにも、見やすく、伝わりやすくするための配慮手法。(特定非営利活動法人メディア・ユニバーサル・デザイン協会ウェブサイトより)
◆発題③「海外事例から考える、公共調達における児童労働対応」(認定特定非営利活動法人ACE 代表 岩附由香氏)
SDGs8.7には「2025年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせる」と明記されていますが、達成には程遠い状況です。ILO&UNICEF Global Estimate 2020によると、世界の児童労働(注4)者は1億6000万人、国別ではアフリカ(特にサハラ以南)、分野では農業に集中しています。日本とは直接関係がないように感じますが、日本が輸入するカカオの8割近くはガーナ産。チョコレートで密接につながっているイシューです。ACEではスマイル・ガーナ・プロジェクト等を通して、この問題の解決に取り組んできました。
また、ISO37200(組織のガバナンスと人身売買・強制労働・現代奴隷(HTFLMS)に関する国際規格)策定に向けた専門委員会に参画しており、児童労働についても明記されるよう提案しています(注5)。
米国では、人身取引被害者保護再授権法(TVPRA/2005年)、通商開発法(TDA/2000年)等の法律に基づく取り組みが行われており、外国で国際基準に反する児童労働や強制労働を利用して生産したと疑われる物品のリスト(TVPRA List)(注6)や、児童労働・強制労働を検索できるアプリケーションSweat & Toilもあり、サプライチェーンにどれくらいリスクがあるか、追うことが可能です。EUの「企業サステナビリティDD指令(CSDDD)」(2024年7月)は、一定規模以上の企業に人権・環境デュー・ディリジェンスの実施を義務付けるもので、バリューチェーンも対象となります。第31条で、義務違反や不正行為があった場合、公共調達手続きから排除される可能性について触れられています。英・ドイツ等、国ごとの法整備も進む中、日本は、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020~2025)」(2020年10月)、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年9月)等は策定したものの、法的拘束力を持たないため、実効性は薄いと言えます。省庁ごとではなく、政府の公共調達をまとめた法改正が必要だと考えます。
(注4)ILOでは15歳未満の違法な労働および18歳未満の危険有害労働と定義。性産業の従事者や、詐欺事件で現金を受け取る役目の「受け子」等も当然含まれる。
(注5)参考:SRセミナー抄録「組織のガバナンスと人身売買・強制労働・現代奴隷(HTFLMS)に関する国際規格ISO37200策定に向けて」(24年9月開催)
(注6)参考:JETROビジネス短信「米労働省、児童労働や強制労働の利用が疑われる物品のリストを更新(米国)」
◆発題④「公共調達を通じた人権の保護・尊重と 持続可能な社会づくり」(一般財団法人CSOネットワーク 理事・事務局長 長谷川雅子氏)
CSOネットワークは、ILO駐日事務所と協働し、公共調達への人権尊重の組入れに関する調査を行い、2022年に第一次提言(23年に第二次提言、24年に最終提言がILOレポートとして発行)を作成しました。同年12月、中谷元 前首相補佐官(国際人権問題担当)に提言を手交した後、23年4月、内閣官房より「政府の実施する調達においては、入札する企業における人権尊重の確保に努めることとする」方針が出されました。環境省や防衛省のウェブサイト等で政府方針の周知や反映が確認できます。中でも防衛省の相談窓口には、「企業活動における人権尊重への懸念」との文言が明示されており、今後の、相談やその対応状況の情報開示に期待したいところです。日本の政府調達は省庁ごとに行われていますが、この仕組みはOECDの中でも日本を含め限られた国のみであり、持続可能性基準を省庁横断の取組みとする難しさはここにも起因していると思われます。
一方、東京都が24年7月に「東京都社会的責任調達指針」を策定したのは注目すべき動きです。本指針は25年4月から適用が開始され、受注者等のサプライチェーンを担う事業者にも本指針を遵守するよう働きかけることを要求しています。また、グリーバンス・メカニズム(苦情処理メカニズム)を設け、本指針の不遵守に関する通報を受け付け、必要な場合は確認・モニタリングを行い、改善措置を求めると明記されています。
持続可能な公共調達を推進するためには、制度・体制整備だけでなく、人材育成や社会の意識の醸成が必要です。サービスの受け手であり働き手である市民が、関心を持ち続けることが重要でしょう。
◆討論「『持続可能な社会責任公共調達』を日本で拡げるために」(進行:川北秀人)
川北:グリーン購入ランキング上位の市区町村の特徴は?
深津:環境マネジメントシステム(環境省が策定したエコアクション21等)がしっかり運用されている団体。担当者が代わってもきちんと運用されているし、結果に対して評価が入ることに慣れているから。
川北:印刷自給率という観点で、物流コストとリスクとの関連については?
江森:神奈川県内ですでに会社がない市があり、他市からの調達となっている。当然デリバリーコストも上がっている。横浜市には地元の企業から調達しなさいという条例(横浜市中小企業振興基本条例)がある。
川北:日本では今後どう進めるべきか?
岩附:省庁別推進だと取り扱えない事項があるので、政府の公共調達をまとめた法改正が必要だと感じる。まずは担当大臣をおくか、審議会をつくるところから。
川北:その他、自治体の取り組みで注目すべき点は?
長谷川:公契約条例(注7)の拡がり。狭義には、「公契約に係る業務に従事する労働者等に受注者等が支払うべき賃金の下限額に関する規定(賃金条項)を有するもの」とされ、賃金という象徴的な数字で表されるためるためわかりやすい。持続可能な公共調達の取組みは欧州における地域経済を守る動きから始まったとされている。その意味で、日本の地域づくりの動きと持続可能な公共調達の取組みが連動していく流れとなればよい。
川北:人材・事業者確保と地域の持続可能性は、さらに大きな問題となるだろう。今後の取り組みについては?
深津:自治体向けの活動の推進。方法・事例を示していきたい。まずは真似ればいいという安心感が必要だと感じる。
江森:共創のいいかたちを提言したい。バリューの話ができるチーフ・フィロソフィー・オフィサー(CPO)がいるとよい。
岩附:強いコミットメントがある人がトップにならないとなかなか進まない。そういう政治家を見つけ、味方につけていけるかどうか。
長谷川:自治体のみならず、企業・事業者、地域の人々も共に意識を高めていくことが重要なので、東京都などの取組みの結果、どのような価値が生まれ、それぞれにとってどのような良い変化が起きたのかを、マルチステークホルダーで一緒に確認する場があるといい。
川北:本セミナーは、来年12月5日(金)16時~18時に開催予定。
(注7)当事者の少なくとも一方が公の機関である契約に係る手続きを通じて、自治体における何らかの政策を実現するために必要な事項を定める条例(参考:一般財団法人地方自治研究機構ウェブサイト)