<開催報告>SRセミナー2023特別版 「12月7日を『持続可能な社会責任公共調達の日』に!」
SDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」(持続可能な消費と生産)のターゲット12.7は、「国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進する」です。NNネットでは発足以来、SRフォーラムやSRセミナーにて、本テーマを繰り返し取り上げてきました(過去のセミナー抄録はこちらからご覧いただけます)。
2030年のゴールまであと6年あまりとなった今、持続可能な社会責任公共調達の取り組みの拡がりをさらに促すために、ターゲット12.7にちなんで、12月7日を「持続可能な社会責任公共調達の日」とすることを提案します。その初日となる今回の特別セミナーでは、社会責任公共調達を日本で拡げていくために必要な、行政の施策の在り方や働きかけ方等について、4名のゲストからお話しいただきました(12月7日(木)開催/ご参加者約15名)。
◆発題①「グリーン購入法の成果と課題、今後求められる働きかけ」
深津学治氏(グリーン購入ネットワーク 理事・事務局長)
1996年に発足したグリーン購入ネットワーク(GPN)は、持続可能な調達(消費と生産)の推進を通じてカーボンゼロ、SDGs、サーキュラーエコノミーの実現に貢献する、購入者・生産者等による全国ネットワーク(会員は1303団体)です。
議員立法により2000年に制定された「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(グリーン購入法)では、国等(国会、裁判所、各省、独立行政法人等)は毎年度、調達方針および実績の作成・公表が義務付けられており、その実効性は高い水準を保っています。一方、地方公共団体・地方独立行政法人は「努力義務」、事業者・国民は「一般的責務」にとどめられているため、国等に比べて、環境物品等の調達実績は伸び悩んでいる状況です。ただし企業はESG等の観点で外部から評価を受ける機会が多いため、取り組みが進んでいます。
今後GPNとしては、地方自治体や企業等の取り組みの底上げを図るために、取り組み度評価のしくみの導入や、基準を簡素化した調達や地元の資源を使った環境物品の調達、グリーン購入法で対象となっていない品目の調達等、幅広い取り組みの推進を働きかけていきたいと考えています。
◆発題②「印刷業界独自の社会責任公共調達の働きかけの経過と課題」
江森克治氏(全日本印刷工業組合連合会 常務理事/元・SR調達研究部会部会長)
全日本印刷工業組合連合会(全印工連)は、47都道府県印刷工業組合を傘下とする全国組織です。1997年がピークだった印刷市場は、デジタル化によって年々縮小しています。生き残りのためには、新たな産業価値創造と社会的プレゼンス向上が必要という観点から、2013年に、業界団体としては日本初の「全印工連CSR認定制度」をスタートしました(規程)。
審査機関はCSR&サステナビリティセンター(代表者:影山摩子弥氏)、認定機関は全印工連CSR認定委員会(ステークホルダーで構成される第三者委員会)です。23年現在、認定企業は141社。ワンスターは書類審査のみ、ツースター・スリースター取得には、現地審査によるシステム評価と取り組み有効性評価等が必要です。
実は、100社程度までは順調に認定取得が進んだものの、その後なかなか伸びませんでした。原因を探ったところ、中小印刷業の最大の顧客である行政のニーズはQCD(Quality, Cost, Delivery)で、それは地方でより顕著なため、顧客が求めなければ企業は変わらないということがわかりました。そこで、顧客(主に行政)の調達基準の改革をめざし、外部の有識者も入れた「SR調達研究部会」を発足(17年~19年)。SR調達の経済効果測定は難しいので政策効果を求めていく方が現実的、自治体におけるプラスの効果を証明できれば現行法下でも実現可能、地域の課題ごとに一点突破が有効、等の知見を得て、社会責任公共調達の働きかけに生かしています。
◆発題③「海外事例から考える、公共調達における児童労働対応」
岩附由香氏(認定特定非営利活動法人ACE 代表)
ACEは、子ども・若者の権利を奪う社会課題(児童労働等)の解決を目的として、1997年に発足したNGOです(2005年に特定非営利活動法人化)。ひとつの団体や地域、国だけで児童労働をなくすことはできませんので、企業とのエンゲージメント(注1)や他団体とのネットワーク(注2)によって活動を進めてきました。
人権への取り組みに出遅れ感のある日本ですが、SDGsの流れもあり、国連による「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく「行動計画」が20年に策定されたことは一歩前進でした。
先月、ジュネーブで開催された「第12回 国連ビジネスと人権フォーラム」のセッション「人権を推進するための公共調達の役割」のスピーカー、欧州安全保障協力機構(OSCE:注3)のKari Johnstone氏による事例発表では、OSCEで人身取引を防止するための公共調達を何からどう始めたのか具体的に紹介されました。組織内外にかかわる方針の改訂、全調達担当者を対象とした人身売買の理解に関するeラーニング、現場担当官を対象とした調達についてのオンライン研修等だそうです。詳細は、「サプライチェーンにおける労働搾取のための人身売買防止と人権の推進における公共調達の役割」をご参照ください。
また、デンマーク人権研究所が20年に発行したレポート「公共調達から変化を呼び起こす」にも、公共調達導入と推進のための手順と事例が紹介されています。政策決定者のための公共調達ガイダンスの章には、公共調達に実効性・継続性・持続性を持たせるためのシステム全体の計画づくりについて記載されています。
(注1)「しあわせへのチョコレート」プロジェクトなど。
(注2)児童労働ネットワーク(CL-Net)など。
(注3)Organization for Security and Co-operation in Europeは、北米、欧州、中央アジアの57か国が加盟する世界最大の地域安全保障機構。経済、環境、人権・人道分野における問題も安全保障を脅かす要因となるとの考えから、安全保障を軍事的側面のみならず包括的に捉えて活動している(外務省ウェブサイトより引用)。
◆発題④「公共調達に人権の『保護・尊重・救済』をどう組み込むか」
古谷由紀子氏(一般財団法人CSOネットワーク 代表理事)
CSOネットワークは「一人一人の尊厳が保証される公正で持続可能な社会の実現に向けて、価値ある取り組みを見出し、マルチステークホルダーの参画による社会課題解決を促す」をビジョン・ミッションに掲げ、1999年に設立されました(2011年に一般財団法人化)。
公共調達は、支払いに対してもっとも価値の高いサービスを提供するValue for Moneyが基本原則ですが、90年代以降、欧州等ではその最大化をめざし、価格と品質以外(環境等)の持続可能性に係る要件を組み込んだ取り組みが各地でなされ、「EU公共調達指令」(14年)や「OECD公共調達理事会勧告」(15年)等として、包括的・戦略的な活用を進めてきた経緯があります。翻って日本では、持続可能な公共調達(SPP)は取り組みも実態の把握も不十分な状態が続いてきましたが、23年4月には「公共調達と人権に関する方針」が公表(注4)されました。しかし、具体的要件等は明確ではなく、その実効性には疑問があります。
CSOネットワークでは、国内外の国や自治体の事例を調査し、「持続可能な公共調達推進に関する第二次提言~バリューチェーンにおける責任ある企業行動・労働慣行の促進に向けて〜」をまとめました(23年3月発行、7月改訂)。その中の4つの提言は以下の通りです。
1. 持続可能な社会の実現に向けた公共調達(SPP)の推進
2. 企業行動が人権や経済的社会的進展にもたらす「正」「負」の影響を考慮した「人権尊重調達枠組」の策定
3. 政府による「苦情処理メカニズム」の提供
4. SPP 推進のための能力開発と体制整備、国民の権利意識の醸成
国においては、内外の事例も参考にSPPを具体的に推進していくことを期待します。
(注4)ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議
◆まとめ「『持続可能な社会責任公共調達』を日本で拡げるために」
進行:IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 川北秀人 (NNネット幹事)
2000年度の自治体の歳出約134兆円のうち、外注するもの(工事や印刷等)は約67兆円で、半分を占めています。社会責任公共調達が義務づけられたら、社会に与える正の影響は大きいでしょう。これまでお話しいただいたように、各地・各分野での自発的な取り組みや働きかけはすでにあり、今後政策とするためにどう動かしていくかが問われています。
民間として求められるアクションは、仮説に基づいて調査・研究を行い、提言・共有を通して、「想定される損失」と「期待される価値」を示し続けることであり、IIHOEでも「自治体における『社会責任』(SR)への取組み調査 報告書~これからの地域経営を左右する地方自治体の「社会責任」対応の現状を可視化し、課題を具体化するために~」を13年に発行しましたが、その後継続的には追えていません。
過去には内閣府の「社会的責任に関する円卓会議」という枠組みもありましたが、持続可能な社会責任公共調達を日本で拡げるために、今後どのように取り組むかについて、ご意見をいただきました。「環境省(等ひとつの省庁)だけで拡げるのは現実的でない。先月、経済産業省による『産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会』(第1回)が開催されたので、省庁間の連携もできればよい」(深津氏)、「企業や組合での取り組みの他に、特定非営利活動法人横浜スタンダード推進協議会の理事長として「横浜型地域貢献企業認定制度」の運営に協力しており、(地域を絞った)横浜での展開に注力する」(江森氏)、「一般社団法人エシカル推進協議会の理事を務めており、アニマル・ウェルフェアの観点からも働きかけを続ける。また、欧州委員会によって昨年公表された(一定規模の企業に対して人権及び環境に関するデュー・ディリジェンスを義務化する)『企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令案』も注視していきたい」(岩附氏)、「提言を基に、公共調達の重要性について働きかけを続け、想定される人権リスクを示しつつ、具体的取り組みを促していく」(古谷氏)。