連続SRセミナーの1年を振り返って
社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク(NNネット)では2016年度、「SRフォーラム」と「連続SRセミナー」を通してSR(社会的責任)の情報を発信してきた。2016年5月には「SRフォーラム2016 in 東京」を開催し、「G7伊勢志摩サミット/持続可能な開発目標(SDGs)」「ビジネスと人権に関する指導原則」「社会的責任調達の世界的潮流-ISO20400発行に向けて」「メガスポーツイベントと持続可能性調達」をテーマとして取り上げた。「予告編」のようなイメージであえてたくさんのテーマを提示して関心を高め、続く「本編」である「連続SRセミナー」につなげる趣旨のものであった。
その「連続SRセミナー」としては、7月に「持続可能な開発目標(SDGs)」、9月に「メガスポーツイベントと持続可能性調達」、12月に「ビジネスと人権に関する指導原則」、そして2月に「持続可能な調達規格-ISO20400」を開催し、どれも多くのみなさんにご参加いただいた。
NNネットは、社会的責任に関する国際規格であるISO26000の策定に向けた議論が高まる中、2008年5月に産声をあげた。CSR(企業の社会的責任)の文脈で日本でも認知度が高まってきていた「社会的責任」は、しかし、ISO26000の策定過程で「SR」として、企業以外のあらゆる組織も含めて担うべきものとして認識され出した。それは、NSRとも言われるように、NPO/NGOも例外ではなく、NNネットを構成する各団体にも、自らの課題としての認識が生まれてきている。多くの企業がそうであるように、NPO/NGOの中には、ISO26000に提起されている各課題と向き合い、自らの組織課題としているところもある。
SRは元来、企業であれNGO/NPOであれ、広範な事業活動それ自体のさまざまな側面に関わる問題である。日々の活動の中で問われる、いわば活動のあり方の問題であり、ある意味、意識化しないと見えてこない。しかし逆に言えば、SRとして意識せずとも、実際には日々、判断したり行動したりしているわけで、その判断や行動の質がSRの視点から問われる。SRとはそういうものだ。
そしてさらに言えば、こうした日常の判断や行動は、世に言われるさまざまな社会的課題と、直接・間接につながっている。社会的責任は、まさに組織が社会と環境に及ぼす「影響」に着眼するものだからである。企業の活動も、NGO/NPOの活動も、ある場合にはそうした社会的課題をさらに深刻化させるマイナスの影響を及ぼす。そしてある場合には、社会的課題を解決に導くプラスの影響を及ぼす。ちなみに、ISO26000では、「組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任」と社会的責任(SR)を定義している。
2016年度にテーマ化した4つのトピックは、いわばこうした意識化しないと見えにくい課題を具体的に見えやすくするものであり、それぞれの中にSRの契機が含まれている。SDGsの17の「目標」と169のターゲットには数多くの具体的な社会的課題が含まれている。それらと日々の活動はどうつながっているのか、あるいは、SDGsの諸課題に企業は、NGO/NPOは、どう貢献できるのかを考えることができる。メガスポーツイベント、直接的にはオリンピック・パラリンピックでは何がどのように問われているのかを学ぶことを通じて、自らの組織のあり方を振り返ることができる。ビジネスと人権に関する指導原則を知ることで、日々の働き方を見つめなおし、あるいは事業活動のあらゆる場面で遭遇する「人」への対し方を反省することができる。そして、ISO20400のテーマである持続可能な調達は、調達するモノやサービスがないと活動を継続できない以上、あらゆる組織に関係する問題だ。
これらのベースには、SRがある。NNネットが取り組む所以である。連続SRセミナーは2017年度も継続され、同様の発信を行うことが予定されている。関心あるみなさんのご参加を心から期待したい。
― 松岡秀紀(ヒューライツ大阪 一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)