連続SRセミナー2016 第4回「『持続可能な調達』規格-ISO20400」開催報告

2016年度の連続SRセミナー第4回は、発行が迫る「『持続可能な調達』規格-ISO20400」をテーマに、17年2月21日(火)に開催されました。規模は小さいかもしれませんが、NPO/NGO自身も、多様な物品やサービスを購入する立場である以上、「持続可能な調達」は重要な課題です。同規格策定に際して日本代表のエキスパートとして出席されているロイドレジスタージャパン株式会社 取締役事業開発部門長の冨田秀実さんに、持続可能な調達に関する最新の動向や今後の見通しなどについて詳しくお話しいただきました。(文責:川北秀人)

1.「CSR調達」への進化

調達の基準として、一般的には、品質・コスト・納期(QCD)が重要だが、2000年前後から環境への配慮も求められるようになってきた(グリーン購入)。
その後は続いて、人権や労働など、CSR全般に配慮した調達へと進化しつつあり、責任ある調達、サプライチェーンのCSR、エシカル調達などさまざまな言葉も出てきている。

CSR調達が求められるようになった背景として、グローバリゼーションの進む中でのビジネスモデルが抱える問題がある。アパレル業界をはじめとして劣悪な労働環境が指摘されていること、生産や調達のコストダウンへの圧力の結果として、法制度が未整備だったり腐敗が横行していたりする国へと生産・調達が流れてしまうこと、また、資本関係のない、契約関係のみの取引先ゆえにコントロールも効きにくいことなどが挙げられる。結果として、サプライヤー、業務委託先、原材料の採取現場などで、様々な問題が発生するようになった。

サプライチェーンにおけるCSRを取り巻く環境も、変化しつつある。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」やOECDの「多国籍企業行動指針」をはじめとする国際的な企業の行動規範、英国の現代奴隷法をはじめとする法令の強化、ESG投資の進展が挙げられる。その背景には、サプライチェーンにおける人権侵害等の事例が顕在化したことによる市民社会からの視線や働きかけ、不買運動がある。企業にとっては、捨て置けないブランド毀損リスクとなりつつある。かつてたくさん叩かれた米国のある企業は、今ではサステナビリティにおける一流企業となり、同社に部品を納める日本企業にも、またそのサプライヤーにもCSRへの取り組みの要求が届きつつある。

2.ISO20400とは

このような流れから、サプライチェーンにおけるCSRや持続可能な調達の必要性の認識が高まったことから、ISO20400の策定作業が始まった。ISO26000と同様に、「認証規格」ではなく、調達を持続可能(サステナブル)にする実務に有効な「手引き」として、今年4月には発行される予定。
策定委員会ではフランスとブラジルが共同議長を担っているが、フランスではすでに国内規格として持続可能な調達に取り組んでおり、政府調達にも組み込まれている。

ISO20400(案)の構成

  1. 適用範囲
  2. 参照文献
  3. 用語の定義
  4. 基礎の理解(=持続可能な調達とは何か、原則と中核主題)
  5. 調達方針と戦略への持続可能性の統合(=トップマネジメントが意識すべきこと)
  6. 持続可能性に向けた調達機能の編成(=調達マネジメントをいかに実現するか)
  7. 調達プロセスへの持続可能性の統合(=調達担当者やプロセスにどのように持続可能性を統合するか)

ISO20400では「持続可能な調達」について「ライフサイクルにわたり、社会的、経済的および環境的に最大の利益をもたらす調達」と定義している。ただ安く買うだけでなく、地域経済の活性化なども期待されているという意味だ。また、「注記」として「持続可能な調達は商品及びサービス、並びにサプライチェーンに属する供給者(サプライヤー)に関連する持続可能性側面を含む」とされており、モノだけでなくサービスにも、また、調達者だけでなく、調達先である供給者(サプライヤー)にも問われる。

「4.2原則」について、最初の7項目はISO26000から引用されており、「革新的なソリューション」(例:自動車を「買う」から「シェア」へ)、「必要性へのフォーカス」、「統合」、「継続的改善」の4項目が加えられた。

「4.3 中核主題」については、ISO26000と同じ。

「4.5 考慮点」については、「リスクのマネジメント」、「デュー・ディリジェンス」、「優先順位付け」、「影響力の行使」、「加担の回避」が挙げられている。

「5.調達方針と戦略への持続可能性の統合」については、「(経営トップの)コミットメント」、「アカウンタビリティの明確化」、「組織の目的目標と調達の整合」などが挙げられている。これらの項目についての一律の答えや対策があるわけではなく、自社としての調達や戦略・体制づくりを行うのが大前提だ。

「6.調達機能の編成」については、「ガバナンス」、「人材の有効化」(=理解を進める、きちんとした機能を与えるなど)、「ステークホルダーの特定とエンゲージメント」(社内の他部署、サプライヤー、調達先の地域住民、NGO、ワーカーと)、「優先順位付け」「パフォーマンスの測定と改善」、「苦情処理メカニズムの構築」が挙げられている。優先順位を付ける際には、カテゴリー別やサプライヤー別、サステナビリティ上の課題などをきちんと認識して行うことが重要。

「付録」に掲載されている事例は、策定段階でNNネットが提案したもの。

調達プロセスへの持続可能性の統合は、あくまで既存のプロセスに持続可能性を統合すること。新しいしくみづくりではない。理想を追ってもできないことがある。現実的な側面を踏まえた統合の仕方や、市場の分析などが大切だ。
CSR調達の導入に向けて、もっとも重要なのは、リスク評価とデュー・ディリジェンス、方針の設定と管理の導入、そして、レポーティングだと言える。

3 TOKYO2020「持続可能性に配慮した調達コード」について

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における「持続可能性に配慮した調達コード」も策定が進められている。適用範囲は、組織委員会が調達するすべての物品、サービスおよびライセンス商品。項目として、調達における持続可能性の4つの原則をはじめ、担保方法や苦情処理システムも含まれる。
基準は共通事項と物品ごとの個別基準で構成され、共通事項として「子どもの権利」が盛り込まれたのは画期的だと言える。「責任あるマーケティング」などにも言及している。個別基準について、木材、水産品では緩いのではないか、逆に、買えるのかという、批判も懸念の声もある。

進行役(川北)との質疑

Q1:策定過程でNNネットをはじめ日本から再三提案した「政府調達」は、なぜ明記されなかったのか。IIHOEが2013年に実施した「自治体における社会責任(LGSR)調査プロジェクト」では、横浜市などのように地域貢献企業からの優先調達を行っている自治体以外にも、京都府が調達先への社会責任の取り組みの働きかけについて取り組みを進めていることがわかった。秋田県では、男女共同参画の推進に寄与する企業について、入札時に優遇している。しかし全般的には、総合評価方式の導入も進んでおらず、下請法の遵守さえ要請も確認もしていない状況であり、欧州とは大きな差がある。

→A1:ISO20400には「public & private」と書いてある。欧州では自治体を含め、持続可能な公共調達は(条例などにより)当然と位置付けられている。このため欧州では、「やるかどうか」から、「どうやるのか」に議論が移っている。

Q2:策定過程を通じて、主に欧米などの企業の反応は?

→A2:各社の取り組み状況や報告書などを見ていると、調達に関する記述が深まってきたという印象。業界としての取り組みも進みつつある。ISO20400ができたからといって、全ての問題が解決するわけではないが、国際レベルでの合意として、投資家の動きや市民の動きなどと連動することで意味が大きくなってくる。
ロンドン2012大会を模して進められてきた東京2020大会にとって、初めての成果は持続可能な調達コードの作成。ISO20400の影響は大きい。

進行役からのまとめとして、「自治体行政は、ありとあらゆる多種多様なモノやサービスを調達しているため、地域経済への貢献はもとより、リスク評価もとても重要。横浜市では、すでに地域貢献企業の認定を受けた企業から、優先的に調達している。だからこそ、行政側で基本的な考え方や枠組み、進め方を示すことが重要。国分寺市では『公共調達条例』を制定し、市長直轄の公共調達委員会を設置して検証している。この動きは、ゆっくりでも、世界各地で着実に広がっていく。企業には自信を持って取り組みを進めてほしい。」と締めくくりました。

その後、ご参加のみなさまで少人数の意見交換をしていただき、簡単な質疑応答も行われました。

以上