SRフォーラム2016 in 東京開催報告

7月19日(火)、連続SRセミナー第1弾を開催します。

(ご案内・7/19)連続SRセミナー第1弾「持続可能な開発目標(SDGs)」

 

本年度のSRフォーラムは従来と趣向を変え、いわば映画の「予告編」と「本編」のごとく向こう一年間でNNネットが重点的に発信したいSRに関するトピックを選んで、導入と詳細をセットでご提供する場となりました。

すなわち、SRフォーラム当日は「予告編」。第1部では各トピックの第一人者をお招きし、トピックを議論していくための視点を投げかけていただきました。

トークセッション トピック

A G7伊勢志摩サミット/持続可能な開発目標(SDGs)
B ビジネスと人権に関する指導原則
C 社会的責任調達の世界的潮流 ISO20400発行に向けて
D メガスポーツイベントと持続可能性調達
第2部SRカフェ(情報交換会)

第1部:トークセッション

【A・B】コーディネーター:松岡 秀紀(一般財団法人 アジア・太平洋人権情報センター/NNネット会員団体)

【A:G7伊勢志摩サミット/ 持続可能な開発目標(SDGs)】

●堀江 由美子(公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン/NNネット会員団体)

今般のG7伊勢志摩サミットは、2015年9月国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)採択後の初めてのサミットであった中、日本政府としてG7直前の5月20日にSDGs推進本部を発足したことは評価したい。他方、NGOとしてのG7に対する全体的な評価は、実効的措置に欠けるものとして低い。また、責任あるサプライチェーン(ビジネスと人権に関する指導原則)については前年のサミットから議題に乗ったものの、今年は議題にならず、政策レベルでの議論の進展がなかったことは残念。NGO側の働きかけとしてはメディア戦略の一定の成果はあげたものの、政策議論や決定の場であるサミット自体へのNGOの参加レベルについては満足のいく状況ではなく、何らかの是正を求めていく必要がある。

SDGsの実現には企業の参加は不可欠。NGOとしては、企業側が資源の搾取や人権侵害、昨今話題のパナマ文書問題など、企業活動が開発に対してマイナスのインパクトを与えている状況を認識した上で、改善に取り組むためのサポートやモニタリング、また連携事業の企画等でかかわっていきたい。

【B:ビジネスと人権に関する指導原則】
●山田 美和さま(独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所

昨年のエルマウG7サミットでは国連のビジネスと人権に関する指導原則とその実践、国別行動計画(ナショナル・アクション・プラン)の策定を強く支持すると宣言されたが、日本政府はそれに対して何も応えていない。同原則はすべての企業が人権を尊重する責務を負うことを明確にしている。それは企業活動に制約をかけるのではなく、むしろ企業活動にとってあるべきレベル・プレイング・フィールド(公平な競争環境)を醸成するものである。

2011年に国連理事会で承認された指導原則は、その後OECD多国籍企業ガイドラインなどの様々な国際的フレームワークに影響を与えている。企業活動が世界規模で展開する中、とくに途上国・地域など法整備や執行体制が十分でない場所においては、企業活動のもたらす負の側面とそれを適切にコントロールできないガバナンス・ギャップをうめていくために国際社会共通の指導原則の普及・実践がカギとなっている。

国別行動計画の策定はグローバル社会からの期待に応えるべき先進国日本としての義務である。行動計画は、企業活動に指針を与えるのみならず、政府自体が公共調達などにおける経済アクターとして、どのような基準やあり方で政策を立案・実施すべきかを議論することになるため、今後日本においては、関係省庁における一貫した取り組み、そして企業、労働組合、市民社会組織などのマルチテークホルダーの関与が不可欠であろう。

●氏家 啓一さま(一般社団法人 グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

ボーダーレスに活動する企業の活力・影響力を世界のために活用していくことを目的に、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)は活動しているが、特に企業がビジネスと人権というテーマにどのように取り組んでいるかを紹介したい。

グローバル・コンパクト署名団体は10原則を順守することが求められている。うち、1-6は人権・労働がテーマ。それを順守し社会に対して公開していくことが役割でもある。2008年から分科会活動が始まっているが、当初からあったのが「サプライチェーン」の問題に取り組む分科会である。以降、「ヒューマンライツデューデリジェンス」「人権教育」分科会などが発足した。昨年、分科会活動を通じて「ビジネスと人権―日本企業の挑戦」という冊子を出した。(本日の配布資料)

NPO/NGOへの一言メッセージ

氏家さん)「三方良し」。「三方良し」は、普通、「売り手と買い手が良ければ社会が良くなる」と理解されるが、「三角形の3辺」に注目して、売り手と買い手からつながる「市民社会」への「辺」を太い線でつなげることが「三方よし」になることを期待したい。

山田さん)「指導原則を活用して、日本企業を鍛えて!」。政府、企業、市民社会は三すくみになっている。政府は政策ニーズがないので動かない、企業は規制がないから動かない、情報開示しない、市民社会は情報を与えられてないから動けないと互いに動かない言い訳にしているかもしれない。NGO側からは積極的に発題、関わり合いを期待したい。

企業への一言メッセージ

堀江さん)「対等なパートナーシップ」。「対等」な関係になることは実は難しいが、利害関係が複雑な状況ほど、マルチステークホルダー対話が求められる。互いの立場や利益を超えて、話し合っていけることを期待したい。

 

【C・D】コーディネーター:黒田 かをり(一般財団法人 CSOネットワーク・NNネット幹事団体)

【C:社会的責任調達の世界的潮流-ISO20400発行に向けて-】

●冨田 秀実さま(LRQAジャパン

企業の調達は、従来QCD(quality, cost, delivery)が中心的な関心であったが、現在、サステナビリティに関わる様々な問題が顕在化している。よって、調達過程の源泉までさかのぼってその内容を検証することが求められている。

その際に問われることは環境問題だけでなく、人権や労働、対話、透明性などであり、より広く「組織」として取り組むべき事項やあり方は国際規格化されつつある。

多様なツールはすでに存在しているものの、調達行為にどのようにこれらを導入していくべきか?という点はまだ不十分。組織ごとの包括的な調達実態を把握し、改善に取り組むために目下ISO20400が検討されている。

ISO20400は組織がモノを購入したり、サプライヤーを選定する際に念頭に置くべき事項をまとめたもので、認証規格ではない。本年末ないし来年初めに発行予定。行政やオリンピック組織委員会のような様々な形態の「組織」で活用できるものである。

●川北秀人( IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所]/NNネット幹事団体)

政府・公共調達の中でも、自治体の調達に特化して考えてみたい。欧州では自治体行政の調達において地元優先やSRの観点を取り入れた要件を含めることが一般化しているため、公共調達自体をISO20400の中で定義する必要がないと認識されているほど。日本の市区町村の歳出のうち、義務的経費を除いた調達関係は5割強にも関わらず、IIHOEが2013年に行った「自治体における社会責任調査」(対象は都道府県・政令指定市・県庁所在地市計98自治体、http://blog.canpan.info/jichitaisr/)の結果、ほとんど導入・実施されていない。SRの観点から女性や障がい者雇用などを推奨し、地元企業の優先などの指針を持つ自治体はごくわずかに限られている。このような状況では、地域の持続可能性を高めるはずの自治体行政による調達が、TPPなどにより価格競争だけが激化すると、地元の企業や経済にとって大きな悪影響を及ぼしかねない。環境負荷削減、働き続けやすさの向上など、地域社会に対する貢献が、地域に根差した企業企業と地域の発展の可能性を秘めているという、発想の転換が求められる時期にきている。

【D:メガスポーツイベントと持続可能性調達】

●崎田 裕子さま(特定非営利活動法人 持続可能な社会をつくる元気ネット

メガスポーツイベントが果たす役割の一つは、これからあるべき社会の提案と未来への懸け橋となる取り組みの実践。ロンドン五輪はこの点ができていたと聞き、2年前に調査を行った。オリンピックは再開発する地域規模、住民のみならず世界各地からの選手・観客の規模が多く、環境面のみならず経済・社会的影響が大きい中、その持続可能性の定義の明確化と実現の仕方がカギとなるということが発見だった。

調査から見えてきたロンドン五輪の成功の秘訣

  • 理念・方針の明確化。実現化するチームの構築
  • 上記理念・方針を順守するためのマネジメント規格や調達ルール等の策定。国内規格から国際規格へ発展
  • 人材育成:様々な方針・規格を全関係者に普及
  • NGOなどの外部アクターとの協働を通じた全プロセスの展開

加えて、インクルージョンの重視。社会的包摂、地域に在住するだけでなく、海外からくる様々な特性を持つ人への配慮がなされた。開発が遅れていたロンドン東部の再開発もかね、五輪のレガシーづくりが計画に含まれてもいた。

また、契約の条件に応じて要件を段階設定するなど、調達に関与する側が選択できるようにしたことが業者側の意欲を引き出したともいえる。

●田中 丈夫さま(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 大会準備運営第一局 持続可能性部長)

委員会自体は昨年300人規模から700人規模へと拡充する中、持続可能性部門も9名→14名へ。

IOC「アジェンダ2020」中、提言4と5において持続可能性について触れられている。また、SDGsの実現に向けてもスポーツの貢献可能性が書かれている。。

本年1月に「持続可能性に配慮した調達コード」の基本原則を策定した。年内の公表予定で持続可能性に配慮した運営計画づくり(気候変動、資源管理、生物多様性、人権・労働、参加・協働)を進めている。

オリンピックの影響調査も予定している。運営計画や調達コードの策定については、NGO/NPOや学者の方々とともに進めている。

調達コードの範囲は組織委員会が調達するモノ・サービスが対象。国や東京都がするものについては、尊重してもらうことを働きかける。

第2部:SRカフェ

NNネット恒例のSRカフェ。今回は4つのトピック別に登壇者と参加者が分かれ、意見交換を行いました。平日夜の遅い時間帯であったにも関わらず、活発なネットワーキングの機会となりました。

最後に各グループからのコメント報告を経て、尽きない議論は年間で予定されているトピック別セミナーで続けることを約束して閉会となりました。みなさん「本編」にもぜひお越しください。

 

A:

G7におけるSDGsの注目は低かったが、直前に日本政府がSDGs推進本部を立ち上げるに至ったのはG7のおかげ。日本の中での普及においては、地方創生などの既存の政策との関連性をアピールできるといいと思う。

共通言語としてSRが浸透することをめざし、NGO/NPO側からは色々な視点からの提言を継続し、その立ち位置を生かしてセクター、イシューを超えた対話を地道に続け、次世代への教育への取り組みが不可欠。

 

B:

指導原則は抽象的な分、多様な関係者の中で共通言語・ツールにしていきやすい。

他方、具体化のためには原則が求めている内容の理解や実践プロセスの見える化が必要。

「組織」の共通言語となることが望ましく、例えば企業ではないが指導原則に則って取り組むFIFAの例に続き、実践が進むよう盛り上げていきたい。

 

C:

①運用・コスト・負担、②市民・マスメディアの認識、③地域内調達のあり方(ふるさと納税との組み合わせとか。地域内貢献を評価する仕組みづくりの可能性なども議論)、④NGOの関与の仕方(watch dogとしての役割)をキーワードとして一層の議論と工夫が進むことを期待したい。

 

D:

メガ・スポーツにおけるSRの推進役の主語を「みんな」とし、作り上げていくことが望ましい。市民の参加を得ていくためには、持続可能性とスポーツをセットで語り、市民に対してその重要性や魅力を発信する努力が必要。また、そのプロセスや意思決定における「透明性」の確保も忘れてはならない。

7月19日(火)、連続SRセミナー第1弾を開催します。

(ご案内・7/19)連続SRセミナー第1弾「持続可能な開発目標(SDGs)」