【開催報告】2023年度第1回SRセミナー「G7広島サミット&Civil7の成果と課題~市民と社会的責任の観点から~」

2023年5月開催のG7広島サミット首脳会合に向けて、エンゲージメントグループの一つであるCiivil7は世界中の市民社会の声を政策提言しました。そして、全国各地で開催された閣僚会合に対しても、国内のNPO/NGOが連携し提言や市民参加イベント等が行われ、広島では「みんなの市民サミット2023」が開催されました。さまざまな点で話題になったG7広島サミットや、市民セクターによる働きかけについて、社会的責任の観点から成果と課題を振り返りました。(7月18日(火)開催/ご参加者27名)

<登壇者>
○渡部朋子氏/みんなの市民サミット2023実行委員会 共同代表、特定非営利活動法人ANT-Hiroshima 理事長
○松原裕樹/NNネット幹事、Civil7 運営委員、G7市民社会コアリション2023 共同代表、特定非営利活動法人ひろしまNPOセンター 事務局長
○川北秀人/NNネット幹事、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人

●セッション1「G7広島サミットと市民社会の活動を振り返り評価する」
G7広島サミットの首脳宣言や閣僚会合のコミュニケ、Civil7や市民社会の活動に対して、「核兵器廃絶(渡部)」「市民社会(松原)」「社会的責任(川北)」の視点から成果や課題を論評しました。

<渡部>
私たちは核兵器廃絶という課題に対してG7広島サミットに期待と予測を持ち臨みました。この78年間、被爆者や先人は血のにじむような努力を続けてきて、核兵器廃絶の道筋をG7が拓いてくれることに期待を持っていましたが、G7広島ビジョンは私たちの期待を裏切り、失望と落胆がありました。その一方で、G7首脳が平和記念公園や原爆資料館を訪問したことは一定の評価ができるという声もありましたが、私の意見としてはそれでよいとは思っていません。成果文書の中には何もなかった、これは裏切りだと思います。では、これから何をすべきか、広島は核兵器廃絶の旗を降ろしてしまったのと思われないか。そのために、8月の平和記念式典で広島市長にはっきり宣言してもらうためようお願いしました。その結果は、8月6日の平和宣言が読まれたときにわかると思います。
C7に核兵器廃絶ワーキンググループができたことはとても嬉しいことでした。私たちが直面する社会課題に真摯に取り組む様々な分野の皆さんと顔を合わせて、話ができて、これからも繋がる関係ができました。核兵器廃絶ワーキンググループでは、世界の125の団体と国外・国内コーディネーターの尽力で、一つの成果文書ができて政策提言できたこと、ここには具体的な道筋が示せていること、グローバルサウスも含めて、未来に希望があることだと思います。
皆さんと、核兵器廃絶だけでなく、一緒に立ち上がって、市民社会と政府が対話することを諦めずに続けて、より声を挙げていきたい、その場をつくっていきたいです。

<松原>
G7のエンゲージメントグループとして、私たちのC7は7ヶ国だけでなく、グローバルサウスを含めた国々の市民社会と運営しました。日本で初めてC7をリードするにあたって、国内のNPO/NGOの連合組織「G7市民社会コアリション2023」を立ち上げ、誰でも参加できる形として120団体と78名の会員で運営しています。
C7は、グローバルサウス含む15ヶ国18名の代表者の運営委員会と、6つの社会課題テーマ「気候・環境正義」「公正な経済への移行」「国際保健」「人道支援と紛争」「しなやかで開かれた社会」「核兵器廃絶」のワーキンググループを設け、そこに72ヶ国700名が参加し、政策提言書を作成しました。今年は広島開催ということで、「核兵器廃絶」のワーキンググループを新設しました。そして、4月にC7代表者で官邸訪問し岸田首相に政策提言書を手渡しして対話しました。その翌日に東京でC7サミットを開催し、外務副大臣や関係閣僚にも参加いただき、対話や議論を行いました。
その他、全国で実施された閣僚会合に対しても、各地のNPO/NGOが提言活動や市民参加イベントを行っています。首脳会合が開催された広島では、「核のない、誰ひとり取り残さない、持続可能な社会づくり」を掲げて、県内外の市民社会のメンバーで「みんなの市民サミット2023」の実行委員会を設立し、4月16日(日)~17日(月)の2日間で開催して延べ700名を超える国内外からの市民が参加しました。ここでは、G7サミットの主要議題でなく、幅広い地域課題も含めて17テーマの分科会を実施しました。
そして、5月に広島で首脳首脳会合が開催された期間においては、外務省との連携で国際メディアセンターの隣にNGOスペースを設けて、27の記者会見、13のイベント、11のアクションを展開しました。G7広島サミット首脳コミュニケに対する評価としては、5段階評価を天気で表現して、ワーキンググループのほとんどが雨、私は広島市民から見た評価として成果も課題もあったと感じたので、曇りのち晴れという次への希望を込めて評価しました。しかし、市民社会全体としては雨という厳しい結果となりました。

<川北>
NNネットはみんなの市民サミット2023の4月17日(月)の分科会で「公共調達における社会責任調達を推進するために」を実施しました。SDGsのゴール12「持続可能な生産消費形態を確保する」には、持続可能な公共調達に関するターゲットが定められています。社会責任調達は、私たちがモノやサービスを買うという行為を通じて、こういうものは支えよう、こういうものは買わないようにしようという、基本的な行為です。各国のGDPを見ると、政府による調達がかなりの比率を占めています。
前回の伊勢志摩サミットのときも、前年のエウマウサミットで気候変動に関するサプライチェーンに踏み込んだのに、伊勢志摩サミットで完全にスルーしてしまったので、そのような歴史を繰り返しています。これは、そろそろ黙っていられない状況で、今回の首脳コミュニケでは全く触れられていないわけでないけど、トーンはかなり下がっています。過去に遡って要約はされているけど、独自のイニシアティブに関する文言が一切ないという、かなり残念な結果になっています。平和も環境も人権も大事だけど、全ての団体が揃って声を挙げないといけないのが公共調達と考えています。

●セッション2「G7サミットは社会的責任やマルチステークホルダープロセスを後押しできるのか!?」
G7広島サミットという機会をそれぞれの立場から活かせたのか、今後の展望や私たちが取り組む行動についてディスカッションしました。

<渡部>
今回決定的だったのが声を挙げるということ、政策提言に繋げるということです。これまで私たちはそれを十分にできていませんでした。そのプロセスをまた皆さんとやっていきたいです。パールハーバーのことも、一見美しい言葉が並んでいるけど、それは本当に必要なのか考え直す力や、しなやかに世論形成していくこと、市民一人ひとりがよい意味で批判的に物事を見ることができているのか、問われていると思います。

<松原>
G7市民社会コアリション2023の方でも振り返りを始めています。もちろん過去の伊勢志摩サミットから発展はしているけど、今回このような仕組みが本当によかったのか、もっと市民の力を発揮するには、政府と対話していくには、こういう方法もあったのではないかと議論することが必要だと感じています。次は7年後ではなく、来年はイタリアで今年やってきたことを繋げていけるとよいと考えています。

【参加者とのQ&A】
Q.今回の取組に参加して、様々な政策提言のアプローチをすすめていくことの大切さを学びましたが、公共調達に関して、市町村・県・政府(政府では各省庁が反対するという話でしたが)、それぞれで阻んでいること、市民社会としてどういったところからはじめていったらよいでしょうか。
Q.新しいやり方に、切り替えるのではなく、今までの平和活動に、プラスαを用いる方法。心の平和と公正経済の両輪が必要かと。経世済民という市民参加のSDGsが格差も是正し環境も守る。市民みんなで考え参加し、市民投資という資金調達について学ぶ必要があるのではないか?

<松原>
広島が平和都市というのであれば、平和の定義を捉え直して言語化する必要があると思います。平和を因数分解するとしたら、被爆者の方の問題だけでなくて、あらゆる人への人権、環境への配慮など、それら一つひとつ取り上げたときに、自治体や企業、私たちNPOはそのように経営してるか、社会責任調達の視点からもリストアップして整理していくことが必要と考えます。それを広島がちゃんとやっていることを世界に発信していくことが、世界にも響いていくことだと思います。それと、少しだけ課題感を持っていることとして、政策提言も社会責任調達も、私たち側の仲間を増やすだけでなく、自治体であれば首長や議員や担当者も仲間にしていかないと、なかなか物事を変えていくのは難しいので課題として考えています。

<川北>
社会責任調達に長く取り組んできた立場からお話しすると、ヨーロッパでは国で法律ができる前に、個々の自治体(日本の都道府県レベル)で条例を作りました。なぜ自治体レベルで条例ができたのかというと、モノやサービスを買う時に人権に配慮することはみんな当たり前だと思っているからす。それをどういう手続きで配慮するかということを条例で定めました。一方、日本では、それをやるとどういうメリットがあるかという説明が求められます。例えば、人権に配慮した会社は儲かるのか、人権に配慮していない会社は調達から除外されるかもしれないという負荷をどう説明するのかなど、Q&A集を用意してあげないと、誰にメリットがあって誰にペナルティがあるのか説明がないと進まないのが日本です。ヨーロッパの人達に、人権や環境に配慮したらどれくらい経済効果があるか誰か計算しているのかを聞いてみたら、なぜそのようなものがいるのかと言われたことがあります。当たり前過ぎてて誰もそこを測っていない、だから広がっていないことにも繋がっています。

<渡部>
市場経済を否定するわけではないが、どうしていつも経済効果になるのか、そこが大きな問題ではないかと思っています。祖父が、山に木を植えるということは、山に木を植えて、自分が生きている間にそれを切って糧にすることはないと言っていました。自分の次の次の代のために何かを行うということ、それはとても大事なことではないかと思う。自分が死んだあとの世界を考えること、そういう経済活動もあるのではないか、そういう生き方やまちの営み方、市政もあるのではないかと思います。先ほど条例の話が出てきて、市議会が条例をつくる場合もあるし、首長がつくる場合もあって、2通りあると思います。その条例を作る力を獲得しないといけないなと感じています。

【総括コメント】

<松原>
G7サミットを通して自分の性格が変わったことがあり、もっとずうずうしくなっていいかなと思うようになりました。今回改めて感じたことは、広島の原爆の問題など、78年解決していない問題が世の中にありふれてはだめということ。東日本大震災の原発の問題も同じで、今生まれた子どもが死ぬまでにその問題が解決していない社会はあり得ないと思うので、そういう意味から、答えや結果を急ぐわけではないけど、自分に残された時間の中でもう少し明確に目標を立てて、変えていくということを決意した機会になりました。そこにまだ具体性はないので、皆さんの力を貸してくださいという気持ちです。

<渡部>
私は仲間をつくるしかないと思っています。相手が誰であろうと至る所に仲間をつくる。そして、同じ話ができるようにする。同じ方向を向いた先にある光を共にする、そういうことを大事にしたいと思っています。マーティン・ルーサー・キング牧師は、彼に反対する人にも一緒にやろうよというスタンスだと聞いたことがあります。一緒にやろうよというときに色々と話をする、その中できっとこれだよねという話になるので、そのために一緒にやろうよ、そうだよねということを重ねていきたい。それは国籍も年代も問わず、それを重ねることで何かを実現するために続けていきいたいです。

<川北>
持続可能性を高めてくことや、社会的責任を果たしていくことについて、理解してくださっていない方に理解していただくということも、もちろん一つの大きな役割だけど、いちいち理解してくれていなくても一緒にやってくれている状態をどうつくるかも大事だと思っています。意識が高いことが重要なのでなくて、実践していることや、少しずつでもやり方を変えて進化し続けていること、その仲間を増やし続けていく必要があります。これまで私たちは一緒にやってくれる人を探し続けていたけど、一緒でなくていいからやっている人を見つけたり褒めたりすることも必要だと考えます。そうでないと、特定のセンスを持っている人だけがやっている社会責任だと、それは社会的でなくなる、それは開かれていなくて閉じている状態になります。
どれだけ手法が進化しても、進化そのものが自分の孤立に結び付いていると思っている人はいるので、その人たちもとり残さないことを大事にしたい。手法が進化していることだけに合わせるのではなく、昔からあるものについてもしっかり使っていくことを合わせて考えていかなければと思いました。