<開催報告>SRセミナー2023第2回「サステナビリティの動向について考える」

2023年11月14日(火)、SRセミナー2023第2回「サステナビリティの動向について考える」をオンラインで開催し、約10名の皆さまにご参加いただきました。

発行から14年目を迎えた社会的責任の国際規格であるISO26000について、改めてその内容と特徴をおさらいし、発行後のサステナビリティ業界に与えた影響や今後の動向について、企業がどう社会課題に向き合っていくのか、議論しました。

〇ISO26000について/堀江良彰(NNネット幹事、認定NPO法人 難民を助ける会(AAR Japan)理事長)
・ISO26000の特徴:マルチステークホルダープロセス、信託基金やツイニングシステムの導入、ガイダンス(手引き)規格
・7つの原則:説明責任・透明性・倫理的な行動・ステークホルダーの利害の尊重・法の支配の尊重・国際行動規範の尊重・人権の尊重
・7つの中核主題:組織統治・人権・労働慣行・環境・公正な事業慣行・消費者課題・コミュニティへの参画及びコミュニティの発展
・ISO26000のキーワード:デューディリジェンス(将来を見据えてマイナスの影響が発生しないよう配慮し続ける)、ステークホルダーエンゲージメント(ステークホルダーの特定と利害の特定)
・ISO26000発行後の動き:フォローアップ組織としてPPO(Post Publication Organization)ができたが2018年に解散。後継組織としてSGN(Stakeholder Global Network)が発足。日本では2012年にJIS規格として発行。これまで改訂について3度議論されたが、マルチステークホルダーで策定した意義を尊重したいという理由などから現状維持となっている。

〇サステナビリティの動向について/冨田秀実氏(LRQAサステナビリティ株式会社 代表取締役)
・ISO26000策定時の状況:サステナビリティ業界では2003年がCSR元年と呼ばれているが、当時ツールはグローバルコンパクトやGRI(Global Reporting Initiative)など数えるほどしかなかった。その状況下で英知を集約したのがISO26000であった。
・ISO26000発行を契機に以下3点の整理が国際的に前進:
①国際目標:「できること」から「あるべき姿」の追求へ変化。パリ協定は、バックキャスティングからあるべき姿を示し、途上国も含めた協定。SDGsは、包括的で野心的、理想主義的な目標設定。世界が目指すべき姿が明確に示されるようになり、これらに準じた目標を据えて取り組むことが企業に求められた。
②デューディリジェンス(DD):管理方法が「取り組みやすいこと」から「リスクベースの対応」へ変化。翌年承認されるジョン・ラギーによる「ビジネスと人権に関する指導原則」の要素を最初に取り入れたのがISO26000。その後、指導原則を取り入れた法律やガイドラインが各国で導入され、さらに人権から環境へ拡大する流れとなった。自社内だけではなくサプライチェーン・バリューチェーンや企業の影響力が及ぶ範囲において負の影響を抑える、さらには負の影響が大きいところは優先して対処せよ、という概念であり、企業の責任範囲が拡大し、取り組みの仕方が劇的に変わった。ISO26000は組織管理をするにあたって有益な概念、ガイドラインである。
③ダブル・マテリアリティ:情報開示は、自主的から制度化へ変化。サステナビリティ情報開示基準団体が登場したことで複数の基準が統合されていき、個別にたくさんのものに対応しなければならない状況からは脱した。一方で、「サステナビリティ」を“地球・社会”ではなく“企業”の持続可能性と捉えられがち。GRIはDDの概念を入れた情報開示の指標であり、財務、地球環境・社会という二つの軸への影響がみられるようになっている。これがダブル・マテリアリティ。

 

続いて、ファシリテーターである川北秀人氏(NNネット幹事、IIHOE(人と組織と地球のための国際研究所)代表者)の投げかけや参加者からのご質問にお答えいだきました。
◇道具であるISO26000が使われていくための課題は何か
→ISO26000は、認証規格ではなくガイダンス規格であり精神である、ということへの理解がなかなかされない。例えばMDGsからSDGsなど状況は変化しているが、ISO26000の精神は変わらず重要である、ということへの理解が重要。その精神をくみ取って行動すること。内容のあいまいさが課題でもあり、良いところでもある。(堀江)
◇企業は財務の面からしか評価できなくなるのではないか、という危機感を感じる。経済性に限らないアプローチがどう進められるか。
→財務報告もこれまでの様々な経験を繰り返してできたものなので、歴史の浅い社会指標がまだ定まっていないことは自然の流れ。現在の指標も定量的なものばかりではなく、定性情報も重要であることは含まれている。広範囲に渡るため、すべての指標について企業は開示することは不可能であり、企業のマテリアリティを特定することがまずは重要。(冨田氏)
◇企業、団体のISO26000への関与状況はどのようになっているか。
→ガイダンス規格であるがゆえに企業から積極的に取り組んでいるという声はあまり聞かないが、報告書のリファレンスに載っているか否かで関与状況は見ることができる。ISO26000ができた頃は7つの中核主題で報告書を章立てする企業も多くあったが、現在は参考資料として利用している程度、との言及が多い。ISO26000発行後、さまざまなツールがでてきた影響が大きい。(冨田氏)
◇他のツールや動向との関連性について →ISOはただの民間組織であり、OECDや国連などと比べると非常に小さい。国際合意ではなく、SRイニシアティブの1つにすぎず、ステータスとしてはそこまで大きいわけではない。よりメジャーなプレイヤーがツールを出してきたため、そちらが使われるようになったのは自然な動きだが、それらが出る前に精神を示したことにISO26000の大きな意義がある。現在改訂の議論はされるが、メジャーなツールに立ち向かうことができない、必要もない、というのが現状。ISO26000は非常に多くのステークホルダーが関わった、その策定プロセスに大きな意義があると思っている。策定に関わった人がその後、様々な場面でSR推進に携わっていることが大きな成果でもある。(冨田氏)
◇NPO・NGOの役割について
→今のままではサステナブルではない、ということを発信し続けること。NPO自身の影響力は小さいと言わざるを得ないが、自身が取り組むとともに、企業の行動変容に向けた働きかけをしていくことが役割ではないか。規定を作って終わりではなく、その精神を含めどう守っていくかが重要であることを伝え続けたい。(堀江)
社会的課題への知見の深さをNPOは持っている。自社内を超えた範囲への影響、負の影響の特定は企業だけでは難しい。現場で活動しているNPOからの指摘は重要。マイナスの影響を企業に見せていくことを期待している。(冨田氏)
◇どの主体がどう動けば効果があるか
→多くの人、特に権力を持っている人たちは変わりたくない。ここを変えていくには、志ある政治家や経営者が登場しない限り難しい。登場するためには、市民社会からの声として打ち出していくことが重要だが、市民もそこまで思っていない。目の前の課題に目が向き、中長期的な課題に目が向かない。日本はメディアも教育も注目していない。(冨田氏)

 

最後にお二人からメッセージをいただきました。
冨田さん:ISO26000は壮大な社会実験だった。その過程から学ぶべきことが非常に多いと改めて感じる。ISO26000が扱われなくなっても残した功績は大きいと感じている。
堀江:ISO26000ができてから13年。その後、人権分野など進んでいることもあるが、まだまだ変化は遅い。このペースではサステナブルにはならない。発信し続けていくことは大事だと考えている。