<開催報告>SRセミナー2022第3回「組織のガバナンスに地域から挑む ~静岡県内の非営利組織ガバナンス調査から考える私たちの課題~」

2023年3月7日(火)、SRセミナー2022 第3回「組織のガバナンスに地域から挑む ~静岡県内の非営利組織ガバナンス調査から考える私たちの課題~」をオンラインにて開催し、約20名のみなさまにご参加いただきました。

【調査報告】
(天野浩史さん/(特)ESUNE 代表理事、(公財)ふじのくに未来財団 理事)


大学入学と同時に地域づくりに取り組み、さまざまな団体にかかわってきましたが、非営利組織の不祥事についての報道を目にするたび、大学生と団体をつないでも大丈夫かと不安を感じることがありました。改善のためには、まず非営利組織のガバナンスの現状と課題を確認する必要があります。2021年末に非営利セクターガバナンス拡充プロジェクト準備会によって行われた「非営利組織のガバナンスに関する現状調査」<注1>を知って、静岡版の調査をぜひやってみたい!と思い、非営利組織ガバナンス向上プロジェクト@静岡<注2>を立ち上げました。

<注1>2022年5月にSRフォーラム「非営利組織のガバナンス拡充を進めるために -146団体アンケートから考える-」を開催。
<注2>(公財)ふじのくに未来財団株式会社CoAct(特)ESUNEの3団体で構成。

調査は22年9月から23年1月にかけて実施(本来は年内で終了予定でしたが、9月下旬の台風15号への対応等を考慮し、調査期間を延長しました)。調査対象は、静岡県内の民間非営利組織<注3>です。大きく3つの項目(理事・理事会、監事、防災・減災)について伺いました<注4>。100件の回答をいただいた時点で集計に入り、前述の全国調査結果と比較するかたちで分析を行いました。

<注3>特定非営利活動法人、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人、任意団体です。社会福祉法人は別途調 査を行う予定のため、調査対象に含んでいません。
<注4>設問の一覧(グーグルフォーム)はこちら、回答集計結果はこちらをご参照ください。

回答者の属性をみると、事業規模は1,000万円未満(52%)、団体種別は認定含む特定非営利活動法人(68%)、回答者は理事長(52%)、分野は福祉系(33%)が多かったです。
防災・減災に関する設問は、静岡版のオリジナルです。緊急時の対応には、組織のガバナンスが大きく影響するのではないかという仮説があったためですが、偶然とはいえ、調査を開始してすぐ、静岡は台風15号に見舞われ、この仮説が裏付けられることになりました。日常的には後回しにしてしまいがちですが、台風15号の経験や反省を切り口として、ガバナンス力(りょく)を高めていくべきと感じます。具体的に今考えているのは、NPOの合同訓練、災害に備えるための寄付集め、団体への取材やネットワーキングです。
また、この調査を全国各地で自発的に行っていただけるようパッケージ化を予定しています。今回の設問の他にも聞きたいことはあるのですが、回答に時間を要するため、改めて精査します。

【調査結果へのコメント】
(川北秀人/NNネット幹事、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)


*理事の人数について、不慮の事故など何らかの原因で3人未満となると、法人の欠格事項となるため、少なくとも4人おいたほうがよい、また、限られた時間で判断するためには、理事にも準備が必要であり、年間の開催回数にもとづき、各回の議題はあらかじめ決めて事前に理事に周知するべき、といった、ガバナンスの実務に関する助言を行う必要性を改めて感じた。
*理事への期待について、資金・資源調達の簡単な事例集があるとよいだろう。事故・事件への対応も、理事・監事の重要な役割。不祥事の報道やSNSでの拡散は、組織へのダメージが長期間続く。経営者のチームとして、スピード感ある対応が求められる。
*監事との接点について、年度末の監査に限らず、もっと広げるべき。ハラスメント対応の一次的な窓口のひとつとして、また、利益相反が疑われる場合の相談先としてなどとしても、重要な役割を果たせる。
*今回の調査の項目には含まれなかったが、総会はガバナンスの基礎。会員への説明責任を果たすとともに、会員に、より組織にかかわってもらうきっかけとなるよう活用したい。
*具体的な改善の方法やヒントは、「社会に挑む組織のガバナンス-理事・評議員・監事の役割を最大限発揮するために」(「ソシオ・マネジメント」第9号)を参照いただきたい。

【ご参加のみなさまとの意見交換】*敬称略
◇監事・監査の理想形(NPO会計税務専門家ネットワーク発行「NPO法人の業務チェックリスト」など )はあるが、実際自分が行うのはたいへん。士業の方にお願いする場合も、NPOの現場をご存じない場合、難しさを感じる。
→監事に、理事会や会員が集まる催しに参加してもらう等、団体や活動への理解を深めてもらう機会をつくっている(松原)。
→後任の方を探すのに苦労した。普段から、監事候補を探しておくことが必要(天野)。

◇理事の入れ替えにあたって、気を付けることは?
→入れ替えたい場合も、まず増員して新旧両世代が一緒に走る期間(バトンゾーン)を設ける。理事・監事の候補には、評議員や顧問になってもらっておくとよい(川北)。
→あらかじめ理事会で「どういう役割の人が足りないのか」議論しておく。ジェンダーバランスも大切(天野)。

◇助成金や委託頼みの団体の場合、来年度がどうなるかさえ見通せないので、ガバナンス向上のような中長期的な視点に立てない。
→非営利組織は本来、自主活動が軸になるはずで、助成金や委託事業はあくまでその補完。中長期的な方針を主体的に決められなければ、(行政などの)補完機能にとどまってしまう。組織はそもそも何のためにあるのか、定款を見直し、立ち返るべき(川北)。
→助成金を取れた場合と取れなかった場合の2つの計画を作っておく。大きな幹は変わらなくても状況により都度修正は必要。手弁当でもやるべきと判断すれば、優先順位をつける(伊藤)。
→年に1本は新規事業を実施。うまくいったものが残っていく。理事と一緒にチャレンジを続ける(天野)。

◇今年は特定非営利活動促進法成立25周年だが、年初からよからぬニュースが続いている。また、一般法人法(一般社団法人および一般財団法人の設立、組織、運営、管理について定めた法律)の改善が進まず、闇が深い。

内閣府NPOポータルサイトが拡充され、オンライン申請・報告機能が追加される。これまで所轄庁(都道府県及び政令市)に書面で提出していた申請・届出等について、ウェブサイトを通じてオンラインで入力・提出することが可能となる。

◇所轄庁(都道府県及び政令市)は、NPOのガバナンスに関心がないのか?
→佐賀県は、ふるさと納税との連動から関心は高く、認定取得も勧めている。2013年~18年頃の島根県も、県の施策としてNPOのガバナンス向上が入っていた(川北)。

◇NPOのバックオフィスを大事にしようという風潮の一環として、監事への役員報酬もきちんと考えようという流れ。税理士・会計士に委託する場合、一番忙しい時期と重なり、まじめにやればやるほど赤字になってしまう。

◇このような調査をNPO自身で行う意義を感じた。行政に提案する場合でも、エビデンスを持っていると強い。

◇災害に備えて、役員の地理的分散や、遠方のNPOとの相互応援協定は効果的。

【意見交換を終えて】
*災害とひとくくりに言っても、大雪など、地域によって備えるべきものが違うので、設問も異なってくる。日常から信頼性を高める努力を重ねれば、事業にもつながる(天野)。

*できていないことに注目しがちだが、スタッフ間のコミュニケーションでは、できていることを認め合うのも大事だと感じる(松原)。