<開催報告> SRフォーラム2022「非営利組織のガバナンス拡充を進めるために -146団体アンケートから考える-」

2022年5月18日(水)に開催したSRフォーラム「非営利組織のガバナンス拡充を進めるために -146団体アンケートから考える-」には、約30名の方々にご参加いただきました。ありがとうございました!

【開催趣旨】
小堀悠((特)NPOサポートセンター 理事・事務局長/NPOの社会責任取り組み推進プロジェクト(NSRプロジェクト))
非営利組織のガバナンスについては、最近、スポーツ団体や大学の問題など、いい意味ではなく、社会からの注目を集めています。組織形態や規模・分野の違いはあっても、自ら律していかなければ、国や行政からルールによって縛られ、結果として、活動自体に制約が出てしまうのではないかという危機感を感じます。
そこで、「どうすればよいのかを考える前に、まず現状把握が必要だ」という認識から、「非営利セクターガバナンス拡充プロジェクト」準備会※が、2021年末に「非営利組織のガバナンスに関する現状調査」を行いました。いただいた146件の回答を集計・分析した結果を、本日ご参加のみなさんとも共有し、ガバナンスを拡充するために必要な取り組み等について、意見交換したいと思います。

※「非営利セクターガバナンス拡充プロジェクト」準備会メンバー(五十音順):NPOの社会責任取り組み推進プロジェクト(NSRプロジェクト)、社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク(NNネット)、全国NPO事務支援カンファレンス、一般財団法人非営利組織評価センター

【調査結果報告】
川北秀人(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者/社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク(NNネット)、NPOの社会責任取り組み推進プロジェクト(NSRプロジェクト))

★調査の目的
日本の非営利セクターのガバナンスは、理事会、総会、評議員会、監事が、本来の役割を発揮できていないために、潜在的な可能性や力を発揮できずにいるケースが数多くあると感じられます。また、市民セクターや公益・非営利、社会的事業の担い手でありながら、自律的に改善・拡充を進めることができておらず、結果として、行政主導で設けられた枠組みに受動的に従っているに過ぎない、という指摘も少なくありません。
このような「2つの危機」を放置することなく、事例やノウハウの共有を相互に学びあえる環境づくりを通じて、非営利セクター自らによるガバナンス拡充を促すことを目的に、有志による「非営利セクターガバナンス拡充プロジェクト」の準備会を発足。その最初の一歩として、本調査を実施しました。

★実施方法
準備会構成団体のSNSやメーリングリストなどで回答への協力を広く呼びかけました。受付期間は2021年12月1日から22年1月4日とし、146件のご回答をいただきました。お忙しい中ご回答くださった団体のみなさまには、重ねて深くお礼申し上げます。

★調査の設問と回答結果
大きく4つの項目(A:団体の基本属性 B:理事会 C:監事 D:総会)について伺いました。
設問の一覧(グーグルフォーム)は、こちらです。回答集計結果はこちらをご参照ください。

★回答の傾向と注目すべきポイント
<ご回答くださった団体の基本属性>
・特定非営利活動法人(認定含む)が8割弱(非営利型の一般社団法人と併せて9割弱)。
・支出規模5千万円未満の団体が7割弱。
・ご回答者の属性は、役職者(理事長・代表理事+常務・専務・執行理事等)が6割。
・団体の活動分野は、「支援」3割、「福祉」・「こども」各2割弱。
<理事>
・定員の中央値は下限4人/上限11人。現時点での人数の中央値は7人。
・任期は「2年」が9割(ほぼすべてが任期制限なし)。
・理事会開催回数規定「なし」が8割。20年度の開催回数の中央値は4回。認定特定非営利活動法人は平均6.4回(⇔社会福祉法人は平均3.2回)。
・年間の理事会開催時間の中央値は8時間。公益財団法人は平均7.6時間、社会福祉法人は平均7.4時間。分野別では、「福祉」が平均13.1時間、「子ども」が平均14.6時間と長め。
・理事会における(報告などを除く)実質的な協議時間比率は、「30-50%」が3割強。
・理事会へ期待することの上位は、「理念・目的共感」「理念・方針提示」「積極的参画」、下位は、「理事会拡充」「事務局長選任・支援・評価」「効果的共有」。
・理事会で協議を深めたいことの上位は、「事業評価、理念・目的再定義」「資金調達・財政構造見直し」「地域・社会課題共有」。下位は、「職員人事考課」「事業・活動詳細報告」「理事間交流」。
・理事との連絡手段における郵便・FAX・電話利用比率は、「10%以内」8割(⇔「70%超」0.5割)。
<監事>
・定数の中央値は下限1人/上限2人。現時点での人数の中央値は1人。
・任期は「2年」が8割(ほぼすべてが任期制限なし)。
・監事に期待することの上位は、「役割・責任理解」「会計適正性確認」「法的義務確認」。
・理事会への「出席100%」は、特定非営利活動法人・認定特定非営利活動法人とも約3割(⇔「0%」は、特定非営利活動法人・認定特定非営利活動法人とも約2割)
・年間実働時間の中央値は6時間。上位は「7-12時間」で約2割、下位は「2時間」で約1割。
・監査対象項目の上位は、「会計・経理実地確認」「現預金・資産等実地確認」。
・より時間をかけてほしい項目の上位は、「理事会への指導・助言」「収支構造適正性確認と助言」「会計・経理の実地確認」「事務局への指導・助言」。
・より短時間化してほしい項目の上位は、「社員数・役員構成確認」「法定文書・登記等の確認」「総会運営確認」「文書管理確認」。
・監事・監査の困りごとの上位は、「なし」「形骸化」「候補者」。
<総会>
・書面議決を「定款に明記し実施」は6割強(⇔「定款明記しているが実施なし」・「導入せず」はそれぞれ約1割)。
・委任比率の中央値は約4割。平均開催時間の中央値は「1時間-2時間以内」。
・期待される在り方・役割の上位は「活動理解」「方針共有」、困りごとの上位は、「なし」「形骸化」。

【登壇者討論】
山田健一郎 氏((公財)佐賀未来創造基金/(一社)全国コミュニティ財団協会)
「非営利セクターガバナンス拡充プロジェクト」準備会メンバー
・NPOの社会責任(NSR)取り組み推進プロジェクト(NSRプロジェクト):小堀悠 氏
・全国NPO事務支援カンファレンス:志場久起 氏((特)わかやまNPOセンター)、加藤彰子 氏((特)岡山NPOセンター)
・(一財)非営利組織評価センター:山田泰久 氏
(進行:川北)

★今回の調査について
小堀:たくさん確認したいことはありましたが、ご回答くださる方の負担を考え、今回は、実態を確認する設問に絞りました。
結果を見て、理事会で(報告や情報共有にとどまらず)実質的な協議時間が、意外に確保されているなと感じました。オンライン会議が増えている中、限られた時間をどのように使うか優先順位が精査されてきているのかもしれません。または、同じメンバーが長く理事をされている場合、交流や報告の時間が特に必要ないということも考えられます。また、監事・監査の困りごとがないという回答については、大きな役割・責任を担っていただくことをもともとお願いしていない・期待していないか、過剰な負担をかけることを遠慮しているのかもしれません。

志場:和歌山県内のNPOから、組織運営に関する相談が日々寄せられますが、それらと比較しても、今回のアンケートに回答くださった団体は相当レベルが高い印象を受けました。日常的にきちんと組織運営を行っているが、さらに高めていきたいという意欲をお持ちなのではないでしょうか。こういった意識や取り組みを、地域や規模を問わず拡げていくのが、中間支援組織の役割だと改めて感じました。
また、理事会開催数が年に2回というのは少なすぎるように思いますが、もしかしたら、別途運営委員会等を開催しているなど、運営スタイルが異なる可能性もあります。このあたりの詳細は、個別ヒアリングが必要でしょう。

加藤:岡山県内でも、理事会はあくまで形式的に開催し、実質的な協議は(日ごろから活動に深くかかわっているメンバーで構成される)運営委員会で行うという団体はあります。理事会の重要性と役割をもう少し見直すべきかもしれません。オンライン・ハイブリッドによる開催自体が難しい団体もあります。
回答からは、監事には代表理事よりも重い責任がある、という自覚がないまま引き受けている/お願いしているケースもあるかもしれないという印象を受けました。

 

山田(泰):回答数が少ないとはいえ、組織運営には正解がなく、どういうやり方が理想かは一概には言えないと感じました。その団体が持つ歴史や規模によって千差万別です。組織のガバナンスについてはなかなか日頃考える機会がないので、調査への回答がひとつのきっかけになったのではと思います。
最高意思決定機関である総会についての理解が薄い団体があるようですが、社員と一緒に考える貴重な機会として、もっと活用していけるといいですね。

 

山田(健):2020年に、佐賀未来創造基金も(非営利組織評価センターが非営利組織の信頼性を認証する)「グッドガバナンス認証団体」となりました。よい組織運営の肝となる理事会は、多様性を保ちつつ戦略的に動けるメンバー構成が望ましいと思います。理事会出席率が低い等、組織への貢献が見込めない場合は任期更新せず入れ替えていく決断も必要でしょう。NPOの中には、「いいことをやっているから」という自負が自律を妨げているところもあるようですが、助成金を出す立場としては、やはり信頼できる団体に託したいです。休眠預金の選定基準として、ガバナンスとコンプライアンスの整備重視が明確に示されたのは前進だと思います。助成金のための一時的な取り組みではなく、組織基盤強化の一環として継続できるよう、地域で支援していければと考えています。

★ガバナンスとコンプライアンス推進の担い手をどう育てていくか?

志場:昔からコツコツ活動している、小さい団体の事務担当者のコミュニティで、お互い情報交換や課題の共有などできればいいのですが、なかなか難しいです。事業継承の問題もあるので、先を見据えて、30-40代の横のつながりをつくっていければと考えています。

小堀:NPOサポートセンターとしても、担当者1人で組織の課題を抱えこまず、同じような悩みを抱える人たちが集まって一緒に考える機会をつくることに注力してきました。ただ、講座へ参加する顔ぶれが固定してくるのは悩ましいところです。そこで、1団体から複数名(チーム)での参加を促し、講座での学びを団体に持ち帰ってそのまま生かしていただけるよう心がけています。また、事業継承についても相談が多く、講座のテーマにもしていますが、ただ次の人を探すのではなく、組織や事業のあり方を考えるきっかけとしてほしいと思います。

【参加者からのコメント】
*歴史の長い団体は、昔のしがらみをどう変えていくかが課題。理事会のオンライン化ひとつとっても、急には変えられない。少しずつ変えていくしかない。また、同じ資金規模でも、国内1か所で活動している団体より、海外に複数プロジェクトサイトを持つ団体のほうが、理事会での報告事項はどうしても多く(長く)なる。理事にどこまで知ってもらうべきか、事務局長と相談しつつ進めている。

*ガバナンス改善について、知らないからやっていない団体、知っているができていない団体両方存在する。さまざまな状況・段階のお悩みの相談に対応できる中間支援組織であるべき。

*取り組みが進まない理由のひとつに、(負担が増えるだけで)直接的なメリットがないということがある。(休眠預金などのように)助成金を受ける条件とするなどの外圧も必要。

*個人の活動から始まった自然発生的な市民活動が、(少額でも助成金を受けたいなどの理由で)法人格を取得した場合、ガバナンスやコンプライアンスにまで思い及ばないことは想像に難くない。法人格取得の時点で説明し、理解(覚悟?)しておいてもらうことも必要。

*研修で知識を得ても、実際に推進できるかどうかは別。内部理事と外部理事のバランスをとり、監事の機能を高めることで、ガバナンスやコンプライアンスを多面的に維持していく仕組みが現実的ではないか。

*監事を務めていても、他の団体の監事がどうしているのかは知らないことがほとんど。ネットワークを拡げて情報共有を進めていきたい。

*地方の草の根の団体がそれぞれで取り組むのは現実的でない。市町村の支援センターがきちんと見て回って、つながりをつくる必要がある。歴史がある団体でも、引継ぎができていない場合がある。

【今後の進め方について】
小堀:最初から全部クリアするのは無理でも、最低限求められることを示すことで取り組みやすくなるのではないでしょうか。組織が成長するワクワク感や成功体験を見せることも大切だと思います。

志場:和歌山県の施設を受託しているので、定期的に県の担当者とも意見交換しますが、行政もNPOのガバナンスに課題意識があることを感じます。自ら律していかないと、制度に縛られることになるという危機感があります。

加藤:アンケートでは表面的なことしかわからないので、個別ヒアリングも必要でしょう。法律で定められていることの一段階上として、「できたらやったほうがいい」ことをうまく提案していきたいです。

山田(泰):非営利組織評価センターの業務としても、「取り組んでよかった」事例提供、インタビュー、ノウハウ提供を進めていきます。

山田(健):まず、何のためのガバナンスか理解してもらい、ネガティブな印象を払拭するのが効果的だと感じます。全国レベルと地域レベルそれぞれの役割で、負荷がかかりすぎないように「一緒にやりましょう!」と促していきたいです。

川北:自身の団体を見ているだけでは、向上しているかどうかわかりにくいため、継続的に調査を実施し、相場感を育てていくことが大事です。最小限の改善で一定の効果があることが見せられれば、底上げにつながるのではないでしょうか。また、ガバナンス、コンプライアンスという大きい言葉で語るのではなく、それぞれどんな要素から成り立っているのかを示すことも有効。個別団体のヒアリングの他、活動分野別・地域別・規模別・団体種別等での集計・分析も進めていきます。