【開催報告】SRセミナー2021 第4回「NPO/NGOにおけるハラスメントへの対応をどう進めるか?」

2022年4月からは、中小企業においても、ハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが、事業主の義務となります(注1)。NPO/NGOでは、ボランティアなど雇用以外の形で活動に参加する人や、活動の対象となる当事者の方たちなど、事業や活動のあらゆる側面において、ハラスメントへの対応が不可欠です。
本セミナーでは、星野美佳さん(社労士事務所サステナ、社会保険労務士)、穂積武寛さん((認定特)難民を助ける会(AAR) プログラム・マネージャー、NGO安全管理イニシアティブ(JaNISS) 世話人代表)、永野間かおりさん((認定特)マドレボニータ 理事/産後セルフケアインストラクター)に、制度やお取り組み事例についてご紹介いただきました(1月11日(火)開催/ご参加者約20名)。

(注1)大企業では、2020年6月から義務化されている。


【星野さんによるご発題】

「何をしなくてはならないのか」については、厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)のチラシ にわかりやすくまとめられているので参照してください。チラシ裏面にも記載があるように、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメントへの一元的な対応が必要です。事業主が必ず講じなければならない具体的な措置10項目に加え、防止等のための望ましい取り組み4項目が整理されています。
上記の防止対策を組織運営のフローとして落とし込むには、まずアンケートやヒアリングでの「実態把握」が大事です。自分に直接でなく「こんなハラスメントを見た・聞いた」という声も拾いましょう。組織独自のリスクやシチュエーションがつかめます。続いて、トップメッセージや規程、対応フロー・マニュアル等による「防止施策の策定」。ここで終わらせず、「しくみの見直し」と「周知・研修」につなげていきます(下図参照)。

NPO/NGOは、「雇用者/被雇用者」という単純な構造ではなく、さまざまな立場の人がいろいろな形態でかかわる(注2)組織のため、そのカテゴリーごとに、対応のフローや体制を考える必要があります。少人数で事務局長を中心とした事業運営体制を敷いているNPO/NGOが多いと思いますが、ハラスメントが疑われる事案への対応にあたっては、予め理事・監事・評議員の他、専門家の協力も仰いで、通常の業務の指示系統とは分けた体制をつくっておくことが必要です。
また、「支援者/被支援者(活動の対象となる当事者)」という独特の関係によって、被害者や目撃者が声を上げにくかったり、組織のミッションを優先するあまり、ハラスメント対策が後回しにされたりという危険性もあります。
包括的な取り組みでは解決できないことも多いので、組織としての対応と個人の気持ち・希望を分けて考え、必要に応じて外部の力も借りつつ、継続的に取り組むことが重要です。

(注2)たとえば外部理事、評議員、ボランティア、インターン、寄付者・支援者など。契約形態も多様で、いくつかの立場を兼ねていることも珍しくない。


【穂積さんによるご発題】

1979年に設立された難民を助ける会(AAR)は現在、世界14か国で、日本人職員約70名と現地採用職員約200名によって、緊急・人道支援を実施しています。
日本の法律改正以前から、国際協力関連団体にとって、ハラスメント対策はすでにホットイシューとなっています。世界的に有名な団体の職員による不祥事の影響で、資金拠出団体のガイドラインが厳格化されたためです。
AARでは、ハラスメント禁止方針 を明確化したほか、就業規則への明記や研修の実施、事案発生時の対応手順の整備を進めてきました。ただし、実際の運用においてはまだ試行錯誤の面もあります。
たとえば、海外の事務所で発生した場合、スタッフ間か、被支援者との関係で起きていることなのか等を含め、事実関係の調査は難しく、どうしても時間がかかってしまいます。また、役職員・スタッフ全員の意識向上のためには、制度をつくっただけ、一度研修しただけ、では定着しませんので、継続的な働きかけが必要で、制度を安心して利用してもらうための周知も行っていかなければなりません。寄せられた情報をどのように扱い、保管していくかも悩ましいところです。
いずれにしても、制度に無理にあてはめて解決に持ち込むのではなく、あくまでも本人の希望にそって進め方を決めるべきです。

【永野間さんによるご発題】
マドレボニータは、「すべての母が自らの力を発揮できる社会の実現」をめざし、1998年に創立されました。21年現在、スタッフ3名、理事6名、認定インストラクター20名で、産前・産後ケア教室(対面・オンライン)開催、インストラクター養成・育成、調査・研究(産後白書 発行等)、プログラム開発事業を行っています。
新型コロナウイルス感染症が急拡大した20年春、対面での教室開催が難しくなり、オンライン産後ケアプロジェクトの開発・移行が進む中、組織内で経営方針をめぐる意見の相違も起こりました。意思決定やコミュニケーションのあり方についての不満や誤解が、この混乱した時期に表出したとも言え、小手先の改善では、解決に至らないことがわかりました。
そこで、組織改変の準備を進めつつ、会員・マンスリーサポーターの方への活動報告会を3回開催しました。正直に組織の状況を伝え、新体制への移行について説明したことで、会員・サポーターさんとともにスタッフ・理事・インストラクターたちが一緒に前を向いて進もうという機運が生まれました。
マドレボニータは、その事業内容や参加者の特性上、センシティブな情報を扱うこともあり、ハラスメントが発生する可能性があります。同年10月からは、正会員から紹介いただいた弁護士の協力を得て、人権・ハラスメント対策をスタート。具体的には、次の5つを行いました。

1.【予防】パルスサーベイ実施
毎月、インストラクターとスタッフにアンケートを実施。回答フォームに、業務だけでなく、プライベートも含む個人の状態や悩みを記入する形式です。回答結果は全員に開示して、お互いフォローします。
2.【環境】規程類の整備
スタッフ向け、インストラクター向けそれぞれのハラスメント防止規程を作成。、インストラクター登録・更新契約書にも反映しました。
3.【対応】窓口設置・フロー策定
実際に窓口に相談があった際、誰の責任でどのような流れで進めるかを整理しました。
4.【啓発/周知】研修
形式的な内容にしないために、スタッフとインストラクターへ「過去の傷つき体験」に
ついて無記名でアンケートを実施。その回答結果をもとに、今後も想定される事例を作
成し、研修を行いました。
5.【予防/周知】行動規範策定
お互いを縛るのではなく、尊重しながらともに活動していくためのものです。

続いて、星野さん・穂積さん・永野間さんと、堀江良彰(NNネット幹事/(特)難民を助ける会)のとの討論と質疑応答(進行:川北秀人 NNネット幹事/IIHOE)を行いました。

「グレーな発言や行動をどのように扱うべきか?」(堀江)という投げかけに対しては、「研修を積み重ねるしかない。これまで許されてきた言動も今はもうNGであると言い続ける。また、アンケートに回答してもらう+可能な範囲で結果を共有することで自分事になる」(星野さん)。
「支援体制のベスト・プラクティスは?」(川北)という問いには「現状、組織横断のノウハウ共有のプラットフォームはない。特に問題なのは、小さい組織で働く人の救済措置。共済組合や業界の労働組合へ加入するのも一手だが、問題が起こったときに、組合はその組織自体にはコミットしにくい」(星野さん)とのことでした。
「パルスサーベイ等のアンケート結果は、その機会での即時共有だけでなく、動向把握やフィードバックも重要では?」(川北)という投げかけには「スタートから1年たったので、年間の振り返りを行った。そこでわかったのは、業務そのものよりもプライベートの影響が大きいということ。今後は、子どもの進学等(のライフイベント)と業務のスケジュールを見て、年間計画に生かすようにしたい」(永野間さん)とのことでした。

参加者からの「いわゆる体育会的な組織文化やスタッフの言動には、どう対応するのがよいか?」という質問については、「体育会的なノリは、もはや通用せず、組織にとってかえってリスクとなると言い続けるしかない。常にその場で警告する」(穂積さん)、「そのような言動をする人に、大事にしたいものは何なのか、まず聞いてみては」(永野間さん)、「“体育会系”と大きく括らずに、事象で分けて、それぞれのリスクを洗い出すところから」(星野さん)との回答。堀江からは「人間関係がよくないと、何を言ってもパワーハラスメントになってしまう。まずはハラスメントを生まないための日頃の関係づくりを」とのコメントがありました。

最後に星野さんから、「最初にお伝えした通り、NPO/NGOでは、事業主に義務付けられていること(法律)を実行するだけでは不十分。たとえば、ハラスメント規程は、ボランティア等を含めて、対象を広めに設定する等も検討してほしい。また、“ハラスメント”という単語が伝わりにくければ、モヤモヤ相談窓口、コミュニケーション推進のための取り組みといった言いかえも有効かもしれません」というまとめがありました。