【開催報告】SRセミナー2021 第2回 「スポットライトレポート」や「ボトムアップ・アクションプラン」から SDGs達成に向けたNPO/NGOの役割を確認する
「持続可能な開発目標(SDGs)」は2030年を期限と定めていますが、COVID-19の影響等で進捗が遅れ、達成が危ぶまれる状況となっています。そのような中、持続可能な世界の実現を目指して2016年に設立された、日本のCSO(市民社会組織)・NGO(非政府組織)・NPO(特定非営利活動法人)のネットワーク組織である(一社)SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)では、日本の「自発的国家レビュー」(VNR)に合わせて、市民社会の視点から「SDGsスポットライトレポート2021」をまとめ、日本政府が毎年発行する「SDGsアクションプラン」に対しては、市民社会の立場から補完することを目的に、「ボトムアップ・アクションプラン」(BAP)を発行するなどの取り組みを進めています。
誰ひとり取り残さない社会実現のために、NPO/NGOが果たすべき役割について、SDGsジャパン共同代表理事、(一社)アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長である三輪敦子さんに解説いただきました(10月6日(水)開催/ご参加者約10名)。
政府によるSDGs推進体制とフォローアップ・レビューの状況
「SDGs」はSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称です。2015年9月25日の国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の中に記載されました。この文書は、前文、宣言、持続可能な開発目標(SDGs):17のゴール・169のターゲット(232の指標)、実施手段とグローバル・パートナーシップ、フォローアップとレビューの5つの章から成り立っています。
日本では、内閣総理大臣を本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」と、市民社会・アカデミア・経済団体・労働組合等の14名で構成される「SDGs推進円卓会議」が2016年に設置され、実施にあたっての最上位の政策文書「SDGs実施指針」に基づき、推進されてきました。
毎年7月にグローバルな進捗状況を検討するために国連で開催される「ハイレベル政治フォーラム」(HLPF)では、「自発的国家レビュー」(VNR)が行われます(注1)。日本は2017年に続き、2021年にレビューを公表し、ビデオメッセージによる発表を行いました。政府からの発信が首相でなく外務大臣だったのは残念でしたが、事務局を務める外務省に働きかけて市民社会側に提示された持ち時間を3名で分け、女性3名が登壇しました。
(注1)「自発的ローカルレビュー」(VLR)については、日本の3市1町を含む世界全23都市の先進事例をIGESのウェブサイトから見ることができます。
VNR策定と公表のプロセスから見える成果と課題
2021年のVNR「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成に向けて」では、各目標の達成状況の章で、「円卓会議民間構成員による進捗評価」と「政府による進捗評価」が併記されたことは2017年との大きな違いであり進展です。プロセスの開始が遅かったこともあり、厳しいタイムフレームの中、分科会やパブリックコメント、意見交換会等を経て、「円卓会議民間構成員による進捗評価」に対するSDGsジャパンからのインプットはすべて記載されました。
政府による評価は、「導入した施策」「実施した活動」の報告にとどまっていて、目標と照らし合わせてどこまで進んだのか、何ができていないのか、今後の課題は何かが示されていないため、評価と考えるには不十分な点が多いと言わざるを得ません。「円卓会議民間構成員による進捗評価」を実施したのは重要な進展ですが、両論併記に終わることなく、実施に向けた具体的な改善につなげられるかが今後の課題です。
また、パブリックコメントで多く寄せられた、「『国民』という表記を(選挙権を持たない在日外国人や移民労働者や留学生等を含む)『市民』と表記してほしい」という意見については、1カ所だけでしたが反映されました。1カ所ではありますが、成果でしょう。しかし、「生活保護受給者の男女比について記載してほしい」という意見に対して、「男女の差を示すものではないため記載しない」という回答だったのはたいへん残念でした。性別にデータを収集することで、男女の差が明確になり、必要な施策も見えてきます。これは障害等、他の属性についても同様です。「誰一人取り残さない」ためには属性別にデータを集めることが大切です。
SDGsジャパンでは、これからも当事者団体や当事者の皆さんとの連携をより深め、政策提言につなげていきます。上記を含む、SDGs達成に向けた現状と課題を分析し、日本政府への提言をまとめた「SDGsスポットライトレポート2021」をぜひご参照ください。
BAPは、市民社会からの具体的提言
2030年までにSDGsを達成するために、8つの優先課題に関して政府が行う施策や予算、担当省庁を整理した「SDGsアクションプラン」は、2017年から毎年12月に次年版が発表されています。このプランに対して、市民社会からの応答として作成してきたのが「SDGsボトムアップ・アクションプラン」(BAP)です。「SDGsアクションプラン」は、各省庁が行っていることをパッチワーク的に並べた傾向が強く、シナジー(相乗)効果が見えにくいことに加え、期限を明記した目標値がないので、評価とバックキャスティングが難しいという問題点を指摘したいと思います。ボトムアップ・アクションプランでは、政府が示した4つの重点項目(注2)それぞれについて、市民社会の優先課題に基づいた、分野別の政策提言を行なっています。SDGsジャパンの社会的責任(SR)ユニット幹事であるNNネットからは、国の判断を待たず、地域主導で変えていくことができる「社会的責任に配慮した公共調達の実現」について、インプットをしていただきました。
SDGsは公約ではなく行動の段階に入っています。「誰一人取り残さない」ためには、市民社会の経験と知見と声が必要です。NPO/NGOにとってSDGsは、これまでの活動の延長であるだけでなく、あらゆる問題が分野を超えて関係していることを改めて認識し、他団体・他分野との協働を大きく進める機会でもあります。特に、今後大きな影響を被ることになる若い世代との連携は不可欠だと考えます。
SDGsジャパンは、他セクターとともに、環境・経済・社会を統合的に変革していくために、市民からの提言を実現に結びつけるためのアクションを進めていきます。
(注2)2021年の4つの重点項目は以下の通り。1.感染症対策と次なる危機への備え 2.よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略 3.SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出 4.一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
続いて、三輪さんとNNネット幹事で(特)難民を助ける会理事長の堀江良彰との討論(進行:IIHOE・川北秀人)を行いました。堀江から、危機感の共有や、NGOなど市民社会の担い手が取り組むテーマを絞り込み過ぎない(シングルイシュー化しない)ことの重要性について、三輪さんから、若者世代の自発的な取り組みを後押しすることの重要性について述べられ、川北からは、実践や拡がりの効率を冷静に考えれば、国より地域から始めるべきであり、その際に、マルチ・ステークホルダー・プロセスとしての地域円卓会議や、70兆円に及ぶ自治体の調達に「社会責任調達」を織り込むことの意義についてお話ししました。