【開催報告】SRフォーラム2021「円卓会議の『これまで』と『これから』 -「地域円卓会議」提案から10年間の実践から学ぶ」

「誰ひとり取り残さない」を掲げるSDGsの達成に向けて、多様な主体が対等の立場で参画する「円卓会議」の実践がどのように積み重ねられ、今後どのような可能性を持つのか。5月18日(火)18時より、約30名のご参加をいただき、オンラインで開催しました。

「沖縄式地域円卓会議」のこれまでとこれから -100件の実績から
まず初めに、(公財)みらいファンド沖縄 副代表理事の平良斗星さんから、2011年以来、約100回開催、延べ約4000人が参加した沖縄式地域円卓会議について、振り返っていただきました。

地方紙にも載らないような小さな課題から、事業が終了して社会を動かす段階にある課題まで、さまざまなテーマを取り上げてきた。多様な人たちが、平場で、事実に基づいて、課題を共有し続けてきたことが一番の成果。円卓会議を経て、課題解決に向けての座組がつくられたり、自治体と大学の地域連携協定へつながったり、施策に反映されたりするなかで、沖縄式地域円卓会議への期待は高まってきている。ただし、みらいファンド沖縄が、課題解決までフルコミットするには、現状の運用では費用と工数が見合わない。今後の課題としたい。
地域円卓会議の具体的な内容については、その全過程が解説された改訂版「沖縄式地域円卓会議開催マニュアル」をご参照いただきたい。

平良斗星さん

雲南市における地域円卓会議のこれまでとこれから– 住民自治を担う人材と組織を育てる基盤として
続いて、島根県雲南市政策企画部次長兼地域振興課課長の板持周治さんから、地域と行政の関係構築の一環としての円卓会議の活用について、ご紹介いただきました。

雲南市には30の地域自主組織があり、1地域(おおよそ小学校区)あたりの人口は200人~6000人と幅広く、課題も多様。地域と行政による円卓会議を2013年から実施しているが、その前年に、全国の事例を視察したうえで、地域に丁寧に説明の機会を設け、試行を重ねたことが大切なプロセスだったと感じる。
(距離的な近さではなく)特性が似た地域で集まる規模別、町別、全地域対象など、さまざまな形態で開催。おおよそ2か月に1回(1回2時間)、年間5テーマが基本。当日の議論の軸がずれないように、事前に、進行役を含むキーパーソンが、仮説に基づいて、当日の流れを設計しておく。
地域間の学び合いの機会になり、協働につながるなど相乗的な成果もでている。今後は、円卓を踏まえた取り組みとなるようなフォローと、政策形成へのフィードバックを強めるために議会の関わりが必要と考えている。

板持周治さん

嗜癖・嗜虐行動を変化させたいと希望する人を支える「えんたく」
最後に、龍谷大学法学部教授、同学内犯罪学研究センター長、ATA-net研究センター長の石塚伸一さんから、アディクション(嗜癖・嗜虐行動)の背景にある“孤立”を包括的に支援するスキームとしての「えんたく」について、解説いただきました。

30年以上、全国のDARC(Drug Addiction Rehabilitation Center)を支援してきて、当事者や支援者それぞれの相互交流の難しさを痛感。DARCと地域との関係づくり、行政との連携の問題もあり、沖縄式円卓を活用できないかと考えた。
まずは、課題共有を目的とする「えんたく」を通じて、当事者を中心とした関係者が理解を深め、問題解決型の「円卓会議」につなげていきたい。現在、「えんたく」のガイドラインから評価指標の策定まで進んできており、今後は研修を通じて、司会進行役の育成が急務である。

石塚伸一さん

【質疑応答・意見交換】

★円卓で取り上げるテーマに適しているものは?
*参加地域共通の課題でテーマが絞られているもの。あらかじめ論点を明確にしておく。たとえば、防災のテーマで、避難所マニュアル作成と一口に言っても、論点は多岐にわたり、絞っておく必要がある。地域特性によってフォーカスすべきことも違う。(板持)

*マルチステークホルダーで解決したい問題。複雑化している課題。こじれている場合も、手法の賛否ではなく、ひたすら事実を問うことで、共通の基盤をつくることが可能。(平良)

★円卓実施で苦労したことは?
*ある地域でのダルク施設設置反対運動で地域が紛糾していた。そんな中で、別の町会で「えんたく」を開催した。紛糾地域の住民の方が参加しておられ、地域内では話せないことも、別の地域なら率直に話せるようだった。円卓では当事者の生の声を聴くことが大切。「実は…」というような本音の連鎖が起き、相互理解が進むこともある。(石塚)

*支援にかかわる人は個性的な人が多い。平らにやるのは(ニコニコではなく)ガチンコで話す信頼感・安心感をつくるため。円卓のルールを守ることをお願いし、「意見を交わす場ではありません。事実を寄せ合いましょう」と伝える。分かり合う必要はないし、それぞれが宿題を持って帰ってもらえればよい。焦らない。急がば回れ。(石塚)

*地域のレベルはさまざまだが、それが逆によいと感じている。オール5の地域はなく、円卓はお互いから学ぶ機会づくり。それだけに進行役は重要。現状OJTで育成しているが、本来は職員研修をした方がよいであろう。(板持)

*炎上させないためにも、参加者の意見を聞きすぎない。司会としては「それはあなたの意見ですね」と事実なのか意見なのかを切り分けて確認し、場を安定させる。ただ、自分が言いたいことを言える時間も必要で、そのために円卓の後半、3人ずつに分かれてもらう。(平良)

★新しい人を巻き込むには?
*円卓の前段階として、研究会・勉強会を重ねることに尽きる。ATAに多様なメンバーがいることは強み。「こんな人いないかな」と聞くと紹介してくれる。円卓は、天岩戸神話のように、「なんだか気になることをやっているな」と思う人が集まってくれるもの。真正面で当たらなくても、その人に近い人が来てくれたりする。(石塚)

*マルチステークホルダーとは、異なるセクターに所属していて、課題が解決すればメリットがある人たち。セクターで大雑把に切ってみて、あるジャンルの人が欠けているようなら探す。(平良)

★参加者の安全を担保するには?
*およそ知っている範囲内の人が参加する。冒頭に「否定的なことは言わないで」と伝えている。(板持)

*基本的にインタビュー形式で、問いに答えてもらう(「どう思っていますか?」など個人の論を聞かない)。事実確認→視点提供→事例提供→外部評価の流れを踏む。(平良)

*当事者に話してもらう場合は、すでにケアにつながっている回復途上の方にお願いする。また、行政の人等、無理して来てくれている人もいるので、「立場上、言えないことは言わなくていい」と伝える。(石塚)

★円卓をこれから始めたい人へのメッセージ
*広報時、円卓のテーマをメッセージとしてしっかり伝える。当日は、イデオロギーを超えられるように、数字から確認し、事実を共有して積み上げていく。すごい情報量になるから、市民もジャッジできる。ただし、議論が熟すことと解決することは別。地域に合ったソリューションへの一歩が踏み出せるよう促す。(平良)

*主役はテーマ。事実から真実を見つけて共有する。同じ目標に向かって、それぞれ対等な立場から本音で語り合う。(板持)

*当事者主導の原則と沖縄式円卓ルールを厳格に守ること。行政と地域のコラボレーションを生み、差別と偏見をどう和らげられるか。そのために必要なコーディネーター育成研修を実施するので、ぜひご参加いただきたい。(石塚)