<開催報告>SRセミナー2022 第1回「労働CSR導入について考える」

2022年11月8日、SRセミナー2022 第1回「労働CSR導入について考える」をオンラインと地球環境パートナーシッププラザ/GEOCのハイブリッド形式にて開催し、約30名の皆さまにご参加いただきました。
以下、セミナーの内容をご報告いたします。

〇趣旨説明:堀江良彰(NNネット幹事、認定特定非営利活動法人難民を助ける会 理事長)
NNネットでは、ISO26000が発行された11月に毎年SR、CSRを考える機会をもっている。今年は「労働とCSR」について、今夏出版された「労働CSRガイドブック」を執筆されISO策定に関わられた熊谷謙一さん、外国人労働者の受け入れに取り組まれている堀永乃さん、松村渉さんにお話しをいただく。

〇「労働CSR導入について考える」熊谷 謙一氏(日本ILO協議会 企画委員)
この本は、社会保険労務士会の研究会がとりまとめたもの。ILO協議会でのCSR担当、ISO26000国際起草委員などの経験を踏まえ、執筆に携わった。中小企業による取り組み推進に重点を置き、使いやすさを重視した本。
・ILO中核条約の5番目に「安全衛生」が追加され、労働者保護の観点が強化。
・労働CSR点検をチェック項目により診断。非正規、LGBT、外国人など。労働CSRは、一つの課題だけ注目するのではなく、全体を見ることが大切であることを示している。
・ガイドブックは「労働CSR」とともに「総合的なCSRの取り組み」を示しており、ISO26000をベースに、幅広いCSRへの移行を促している。2000年代にCSRと人権が結びつき、2010年代以降に人権・労働がCSRの主流となった。
・中小企業の取り組みやすさを目指し、好事例集「キラキラ、わくわく」を掲載。
・SDGsに取り組む上でも、企業や労働組合等は、まずは労働CSRを取り組んでみてほしい。働き甲斐のある職場とSDGsの共存を目指す。
・外国人労働者は労働CSRの中心課題の一つ。労働者の中で最も脆弱な方たちへの支援について考えていきたい。

〇「外国人の就労についての課題や取り組み」堀 永乃氏(グローバル人財サポート浜松 代表)

・外国人は雇用の調整弁となり続け、リーマンショック時、手に職をつけさせる、教育を受けさせる必要性を強く実感。新型コロナ禍で同じことが起きてしまった。教育が不十分であるため、派遣職員になる、という負のスパイラル。コロナ禍、外国人労働者が増えた。
・国際社会から批判される日本。人権への意識が低く、技能実習制度は問題視され、日本は労働先として選ばれなくなっている。ホスト社会の意識啓発が必要。
・「教育」(日本語教育)、外国人労働者を雇用するにあたり知識のある「人材不足」(仲介業者に依存することで悪用されるリスクが高まる)、外国人や事業者に対して「情報」が届かない、ことが問題。そこで、専門知識を有する人材の育成と、評価を可視化し改善できる仕組みとして、認定監査人制度を創設。その際にISO26000が参考に。
・セルフチェックシートと初級監査人・上級監査人による2段階評価により、優良事業所認定を行う。企業の規模に関係なく認定される。優良企業を増やすことで、世界で選ばれる日本になってほしい
・事業所からは、監査を受けることで個人依存型(担当者に任せていた)になっていたことに気が付いた、との声。この気づきが改善につながる。
・この“浜松モデル”を世界に発信し、価値観の共有と汎用を通じて、当プロジェクトのフランチャイズ化を目指している。誰もが自分らしく生きられる社会に。日本が世界から「選ばれる国」に。

〇「外国人の就労についての課題や取り組み」 松村 渉氏(NNネット幹事、ひろしまNPOセンター プロジェクトマネージャー)

・休眠預金活用事業として、「外国人・就労居場所支援」を5団体を通じて実施
・外国人の就労についての課題では、「言葉」「文化・習慣」「制度・法律」等の共通する言葉で括られる問題でも、受け入れ側、労働側、支援する側、と立場が違うことで対応が異なる。
・実際の事例(好条件の仕事の話があり現職を退職したが、就職できなくなってしまい、家も失った)から、SNSネットワークにより地域を越えた相談が寄せられること、相談相手が限られていることが安易な決断につながること、小規模な支援団体による緊急相談への対応は困難であること、人とのつながりの重要さ、就職のマッチングの難しさ、などを学んだ。
・緊急時に受け入れてくれる団体は大変貴重であり、そういった小規模な団体をどう支えていくかが重要。
・多様な問題/多様な関係者に対応してくためには、NPOセクターの垣根を超えた多様性で対応していくことが必要。
・地域で外国人労働者を支えるために「かめのり財団」による助成事業実施中。

〇登壇者討論と質疑応答(進行:川北秀人(NNネット幹事、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者))
堀江:日本はできていると思っている人・企業が多い。海外からの指摘で出来ていないことに気づき始めている。ISO26000の精神を振り返りながら、取り組んでいく必要がある。歪が弱い人に行かないようにしなければならない。
熊谷:外国人労働者はISO26000からみると移民労働者の問題。公的な制度のレベルを上げていき、その中にNGOを組み込んでいき、外国人労働者自身の参加も必須。
:多文化共生の観点で静岡銀行が融資を実施。融資項目に多文化共生の観点が入ることで、中小企業の経済合理性につながる。金融機関とのネットワークが必須であり、ESG投資の観点から労働と人権に取り組んでいってほしい。
松村:継続した面での取り組みにするには、時間とお金の猶予が必須。そして成功事例を出していくこと。思いつく限りのステークホルダーが参加した上で、貴重なリソースを費やす。
川北:2010年と2020年の国際調査を比較すると、外国人人口が急増しているのは町村部、つまり第一次産業に従事する技能実習生。市町村単位の国際交流協会がなく、生活支援や相談、日本語教育などの受け入れ体制が整っていない地域であり、それらの活動を日常的に行っている団体との連携が必要。
熊谷:労働CSRの重要なテーマである外国人労働者の働き方が変わりつつある。地域でどうケアしていくかが大きな課題になっていく。共生というメカニズムは都市部ではそれなりの動きがあるが、地域では弱い。行政が軸になっていくことは当然必要であり、プッシュしていかなければならない。社労士との連携も大きな可能性を秘めている。
:日本の外国人労働者はやむを得ず定住しているのが実態。中・長期滞在者向けの対策(=家の確保)など、これまでの経験を生かした対策が必要。NPOはこれまでの知見をしっかり行政に伝えて、政策に反映させていくことが重要。

〇さいごに一言
松村:どこか一つができても問題は解決しない。ISO26000や労働CSRの視点は重要だと思います。
:様々な問題を皆で考え取り組んでいかなければならない。課題に取り組むことで自分にとって良いことがほとんどです。
熊谷:日本にいる外国人と日本人が共生し、ともに労働CSR、そしてSDGsに取り組めるような、未来都市を目指したい
堀江:難民問題はグローバルに対応していかなければいけない。日本社会も受け入れ、より多文化共生が求められる。
川北:高齢化が進んでいる日本。すでに女性の就労率が高まっている。今の人口構成ではなく将来を見据えて“働く”ということを考えなくてはならない。