【開催報告】SRセミナー2021 第1回「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がNPO/NGOに与えた影響」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の長期化によって、社会課題は深刻化し、厳しさを増しています。その解決に取り組むNPO/NGOの活動にも、さまざまな制約・制限が生じていることは、みなさまが日々お感じの通りです。
今回のセミナーでは、調査や助成先とのコミュニケーションから見えてきた、NPO/NGO・社会起業家を取り巻く状況、その対応や工夫等について、支援団体の方々からご報告いただきました(7月13日(火)開催/ご参加者約25名)。

■報告1「COVID-19が社会起業家に与えた影響」
山内幸治氏(特定非営利活動法人ETIC. 理事・ディレクター)

COVID-19感染拡大の長期化は、あらゆる地域・あらゆる人たちに影響が及ぶとはいえ、立場によって見える課題も異なり、分断を深めやすい構造を生んでいます。このため、起業家・リーダーたちには、自身が担うべき役割を再定義し、組織や社会のあり方を進化させていくだけでなく、より草の根の取り組み(相互扶助・共助)が重要になるのではないか、という仮説がありました。
そこでETIC.では、その検証および彼らの後押しとなるような、中長期的なニーズ把握のためのさまざまな取り組みを行ってきました(注1)。
そのひとつが、「変化の激しい時代における社会課題解決主体の進化・適応に関する調査」レポート(注2)です。アビームコンサルティングさんの協力のもと、今年4月に発信した本レポートでは、107団体の調査と27団体のヒアリング結果の分析を行いました。

これは、「現地対応の必須度」と「暮らしにおける緊急度」に応じて、社会課題解決に取り組む主体を4象限で整理した図です。
左上のAに当てはまる団体(自然体験教育、観光、「留職」等)は、組織存続の危機に陥ったことから、支援対象を見直すとともに、緊急度の高い課題への取り組みに移行する傾向がみられました。また、右上のBに当てはまる団体(ひとり親世帯・生活困窮者支援等)は、活動の負荷が急激に高まったために単独の取り組みでは限界があり、複数団体との協働や政策提言など、活動を深化させていることがわかりました。
分析結果からは、自律的に課題解決できる共助社会を実現するには、各団体が、災害や感染症拡大といった状況変化に適応しながら、目的に向かって活動を発展させていく必要があることが明らかになりました。そのキーポイントとして挙げられたのは、① 団体のレジリエンス ② テクノロジーの活用 ③ 多様なプレイヤーの参画 ④ パーパス(存在目的)の意識・共有 の4つです。
しかしながら、日々現場で課題に向かい続ける団体(たとえばDV支援、電話相談等)の中には、疲弊感が強く、ニーズの急増・急変にうまく対処できない状況にあることも事実です。そのような場合は、イシュー型中間支援団体が連携して、リアル/オンラインで多面的にサポートすべきだと考えます。多くの人々がコロナ禍の当事者となって、より大きなダメージを受けている人たちへの共感が拡がり、プロボノや個人寄付が拡大していることは明るい兆しです。今後は、人材や資源を丁寧につないでいくコーディネートと枠組みが、いっそう重要になってきます。

注1:COVID-19 コロナ禍におけるETIC.の取り組み
注2:「変化の激しい時代における社会課題解決主体の進化・適応に関する調査」調査報告書

■報告2「COVID-19が地域福祉活動団体に与えた影響」
阿部陽一郎氏(社会福祉法人中央共同募金会 常務理事・事務局長)

「赤い羽根共同募金運動」は、1948年から毎年(10月1日から翌年3月31日まで)全国一斉に実施されており、全国の都道府県共同募金会は、期間外の個人・企業からの寄付や、災害義援金の受付の窓口にもなっています。
昨年3月2日から突然始まった一斉休校措置を受け、通常枠とは別に、特定の課題に基づくテーマ枠として、同月4日から「赤い羽根 臨時休校中の子どもと家族を支えよう 緊急支援活動」募金を開始し、3月・4月で3回の助成(555件、4,467万円)を速やかに行いました。助成先は、食材配布、学習支援、居場所支援、子ども食堂などの活動で、約5千人(延べ2.7万人)のボランティアの参加によって、約5.2万人(延べ20万2千人)の子どもと家族を支援することができました。
同年5月からは、「赤い羽根 新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーン」(注)として拡大展開。子どもと家族の緊急支援助成、居場所を失った人への緊急活動応援助成、フードバンク活動等応援助成、withコロナ 草の根活動応援助成など、テーマ別としました。

実は、この緊急助成では、想定したよりニーズが少なかった、活動の機会・場所が制約されたなどの理由で、3割の助成先が事業を実施できませんでした。こういった実情や課題も踏まえつつ、21年度も、「いのちをつなぐ支援活動を応援!~支える人を支えよう~」として継続しています。
すべての市区町村にネットワークがあるからこそ、きめ細やかに応援できるしくみを生かし、地域の人々が重層的に支援する・される「地域の箱」(Community Chest)として、地域福祉活動の“あとひと押し”のお手伝いができるよう、引き続き進めていきます。

参考:赤い羽根 新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーン助成事業のご報告

■報告3「休眠預金制度によるCOVID-19対応活動への支援の経過」
大川昌晴氏(一般財団法人日本民間公益活動連携機構 総務部長)

「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金等活用法)に基づく休眠預金制度という枠組みの中でも、新型コロナ感染拡大の状況を踏まえた柔軟な対応は必要との認識から、昨年4月下旬に方針を公開し、2019年度採択団体に実態調査やヒアリングを行い、内閣府との調整など必要な手続きを経て、5月25日に「新型コロナウイルス対応緊急枠」の公募を開始しました。検討から1か月という、公的な組織としては異例のスピード。ただ、準備を急ぐ中であっても、実効性や効率性を高めるために、資金分配団体との意見交換や関係者との対話の機会を設けたことは重要でした。
資金分配団体公募に続いて実行団体の公募を進め、7月から8月にかけて、順次事業がスタートしました。総額で、新規が40億円、19年度採択団体向けが10億円の枠です。事業内容は、困窮状態にある人たちへの食支援や生活相談支援、職業訓練や就労支援が多く、たとえば、(特)ワーカーズコレクティブうぃず(千葉県柏市)は、「キッチンカーでGO!~どこでもこども食堂&暮らしのサポート~」という事業で、キッチンカーの活用によって、フレキシブルなサービスを展開しています。

いわゆる「骨太の方針」(注)にも、「SDGs実現を含む社会的課題に取り組む民間の活動に対し、民間の寄附や資金、人材を広く呼び込む多様な社会的ファイナンスの活用を促進する。特に、休眠預金の更なる利活用を促進すべく、必要な運営面の強化・改善と合わせ、事業規模の段階的拡大や年度途中の予期せぬ事態等にも迅速に対応できる仕組みの改善・充実等について検討を進め、速やかに実行に移す」と明記されました。今後、「緊急枠」の実施状況と改善すべき点を確認しつつ、「通常枠」への接続がスムーズに行えるよう、検討していきます。そのためには、資金分配団体が、案件組成やコーディネートの力を育めるよう、継続的なサポートが必要だと考えています。また、助成先へとのコミュニケーションだけでなく、他の助成機関と視野・視座を重ねるため、情報交換の機会も設けていきたいです。

(注)21年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2021日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」
第2章 次なる時代をリードする新たな成長の源泉~4つの原動力と基盤づくり~内(27ページ)に記載。