2015/11/21(土)「SRフォーラム2015 in名古屋」 開催報告

2015年11月21日に「SRフォーラム2015 in名古屋」を開催しました。NNネットとしては初の、東海地域でのイベント開催です。今回は「調達・購買を通じた持続可能な社会づくりのために」というテーマで、ゲストトーク、事例報告、グループディスカッションを行いました。

はじめに、NNネットの幹事団体である一般財団法人CSOネットワーク事務局長の黒田かをりさんから、このフォーラムの趣旨説明と主催団体としての挨拶がありました。これまでのQCD(品質・コスト・納期)を重視する調達・購買から、環境や社会に与える影響を考慮した調達・購買への必要性が高まってきた背景には、この「調達・購買」といったサプライチェーンの中で、非常に深刻な環境破壊、人権侵害、不公正などが生まれているという背景があります。今回のフォーラムでは、多様なセクターからの報告をふまえ、皆さんと今後の取り組みの検討を行う機会としたい、という挨拶をいただきました。

ゲストトーク【フェアトレードタウン認定への歩み・地球とのフェアトレード】
原田さとみ氏(フェアトレード名古屋ネットワーク代表)

原田さんは、名古屋市が2015年9月に、熊本市に続いてアジア・国内2番目のフェアトレードタウンに認定されたときの立役者のお一人です。フェアトレードを地域に根付いたものとして広げる活動に尽力されている原田さんから、名古屋市のフェアトレードタウン認定までの経緯やそのポイントと意義、今後の構想についてお話を伺いました。

フェアトレードタウンの意義は、途上国の貧困問題の解決が主要なテーマであった〈フェアトレード〉をまちぐるみで推進することによって、地域を含めた社会・経済全体をフェアで持続的なものに変えていく「変革力」にあると言います。特に日本でのフェアトレードタウン認定は「地域社会への浸透」を日本オリジナルの基準として加え、地域の問題解決を視野に入れているということでした。また、名古屋市のフェアトレードタウン認定までには、市民団体による長年の取り組みの下地があったものの、市議会や市をまきこんだ、丁寧なプロセスを踏んだと伺いました。

今後は、フェアトレードタウン認定をきっかけにまちぐるみの「運動」にすることで、市民ももっと気軽にフェアトレードに参画できるようにしたいとのことです。「知る」「選ぶ」「買う」という一人ひとりの小さな行動からフェアトレードを実現し、公平で平等な調達を実現するとともに地域の賑わいを創出していきたい、と構想を語ってくださいました。

事例報告1【社会責任調達の世界的潮流―ISO20400発行に向けて―】
冨田秀美さん(LRQAジャパン事業開発部門長)

冨田さんからは、現在策定中の「持続可能な調達規格ISO20400」について、策定へ向けた国際会議等に日本代表として参加されているお立場から、その議論のポイントや持続可能な調達の動向について伺いました。

「持続可能な調達」とは、以前から取り組まれてきた「グリーン購入・グリーン調達」の概念が拡大したものです。ISO20400ではその定義を「長期的な社会的、経済的および環境的利益をもたらす調達」としており、「商品・サービス」そのものと、サプライチェーンに属する「供給者」の両方についての持続可能性が対象となっているということでした。

残念なことに、調達に関わる問題は深刻化・グローバル化がすすんでいます。2013年に発生したバングラデシュのラナ・プラザの崩落事故(生産現場での事故。死者1,000名以上)、2014年に発覚したタイのエビ養殖場での劣悪な労働環境問題、2022年のカタールW杯準備に携わる労働者の労働環境問題、アフリカなどで発生する紛争鉱物問題(希少金属等の資源の紛争、武力勢力への資金源化)など、事例の枚挙にいとまがありません。「低コストで早く、高品質なものを生産・調達したい」という調達側のニーズによって海外での生産・調達が拡大し、資本関係のないサプライヤーや委託先が増え、直接的な管理が困難になってきたことも問題を生む背景の一つだと伺いました。

「持続可能な調達」の動向については、2015年6月のG7エルマウサミットにて「責任あるサプライ・チェーン」が首脳宣言されており、「ISO20400」も2016年冬から2017年春ごろに発行される見込みです(詳細はNNネットの「「2015/9/15(火)「持続可能な調達」に関する勉強会 開催報告」をご参照ください」。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、高い基準での持続可能な調達が求められるとのお話に、今後、日本での関心の高まりも期待できるのではと思いました。

報告2【行政における社会責任調達の推進-あるべき制度の検討】
山田厚志さん、金田学さん(愛知CSR推進研究会GSR部会)

株式会社山田組代表取締役の山田さん、愛知県産業労働部産業労働政策課主幹の金田さんのお二人にご登壇いただき、主に愛知CSR推進研究会と山田組の取組みについて伺いました。

愛知CSR推進研究会では、「共助の社会システムを構築するため、愛知固有の地域貢献的な企業を評価(認定/表彰)する仕組みを創設する」ことを目的とし、NPO、大学、行政、企業などが集まって意見交換をしてきました。その中から2015年4月、地方自治体のSRを考えるGSR部会がつくられたそうです。このGSR部会では「〈民間〉対〈民間〉の調達」と「〈行政〉対〈民間〉の調達」は違うという認識のもと、〈行政〉対〈民間〉である公共調達は、透明性や公正性に加え、納税者に対して「なぜこの受注者を選んだのか」という説明責任を主体的に果たしていく必要があるとし、価格本意にならざるをえない公共調達のありようを変える試みを検討しているとのことでした。

山田さんからは、山田組のような建設業者には税金が投入される仕事が多く、その仕事は言わば地域の課題解決のための仕事でもあるのだというお話がありました。また、例えば災害現場の前線には必ず建設業者が存在し、行政と建設業者との間にはそういった共助の関係性があることも挙げられたうえで、建設業者が地域の災害に対する備え(防災・減災)にも主体的に参加することの意義を述べられました。山田組が地域(自治会)、NPOと協働で開催されている防災・減災事業の事例は、具体的でとても参考になるものでした。

報告3【企業・業界としてのCSR調達への取組】川北秀人さん
(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])

川北さんは、数多くの企業のCSR活動を支援し、また日本で初めて「自治体の社会的責任に関する調査」を実施されています。今回は第三者的なお立場から、企業と自治体の社会責任調達についての現状と課題を伺いました。

川北さんによると、愛知県(刈谷市)に本社のある株式会社デンソーのCSR活動が現状では「世界一」だと言えるとのことです。調達についても、トヨタグループに属しているものの、トヨタ自動車株式会社の受注(調達)は全体の4割を切っており、むしろ欧州の自動車メーカーが求めてくる高い調達基準に応えられる水準を維持しているとのことで、具体的に伺った仕組みと実践のすばらしさは「世界一」の評価も納得できるものでした。その他、日立グループの人権方針などもグッドプラクティスとしてご紹介いただきました。

「自治体の社会的責任」に関しては、愛知県内の自治体の一つを取り上げ、財政状況の推移を示しながら、人間の高齢化とともにインフラの高齢化も進む日本において、それぞれの自治体がどのようにバランスのとれた社会的責任を果たしていくかを、本気で検討する時期に来ているというお話をいただきました。特に公共調達が歳出のおよそ6割を占める自治体にとって、地域に対しても還元していく社会責任調達は不可欠であるというお話は納得できるものでした。

グループディスカッション

最後に4~5名の参加者でグループを作り、各自が所属する団体の取組みもふまえた社会責任調達の現状と課題を振り返るディスカッションを行うとともに、登 壇者の方々への質問も考える時間を取りました。「組織の取り組みに対し、背中を押す仕組みができるのは歓迎」「製造業など商品に関わる組織だけでなく、 サービスを扱う組織にももっと身近なこととして感じてもらいたい」「調達は物だけなく労働力(人の調達)についても言えるのでは」「個人が学んでも、その 課題意識を組織の取り組みにつなぐのは難しい」など、さまざまな意見や疑問が出され、それに対する意見のやりとりもあり、それぞれに持ち帰るもののある フォーラムになったのではないかと思います。今後、東海地域での社会責任調達がより広がることを期待しています。(文責:特定非営利活動法人参画プラネッ ト 中村奈津子)

ISO26000の誕生月である11月に開催した当フォーラムですが、この日はなんとスピーカーの冨田さんのお誕生日でもありました。ケーキでお祝いもしました。写真右はフェアトレード名古屋ネットワーク代表の原田さとみさん、左は一般財団法人CSOネットワーク事務局長の黒田かをりさん