“CSR”と “CSV”、あれこれ ―日本ILO協議会 熊谷謙一(ISO 26000前国際起草委員)

“CSR”と “CSV”、あれこれ

日本ILO協議会 熊谷謙一(ISO 26000前国際起草委員)

最近、“CSV”が賑やかだ。「CSRとどう違うんですか」、「これもISO26000と関係ありますか」。なかには「これからはCSRじゃなく、”CSV“になるんですか」などやや”脱線“気味の質問もある。

“CSV”はアメリカの経営学者、マイケル・ポーター博士の理論、Creating Shared Value、つまり、「共有価値の創造」の頭文字によるものだ。ビジネスの戦略理論であり、企業が、社会・環境問題を解決しつつ、競争力を高め利益を上げることをいう。今日、世界、とくにアメリカには多くの経営戦略論がある。日本の企業がそれぞれの判断で「これは!」と思うものがあれば、チャレンジしてみるのも良いだろう。その一つが、“CSV”であってもおかしくない。しかし、“CSV”は、経営戦略論の競争が激しい米国のなかで、一人の研究者・起業家によるものであることを忘れてはいけない。事実、対抗するような新しいセオリーも現れている。コロンビア大学の経営学者、マグレイス教授は、昨年、ポーター理論では競争力が持続しないとして、新しい起業戦略を提唱している(「競争優位の終焉」)。

一方、CSR(Corporate Social Responsibility)は、企業の社会における正しいあり方と責任を示すものである。その内容と活動について、これまでの運動と理論の積重ねのなかで国際的なコンセンサスが形成されてきた。ISO26000(社会的責任に関するガイダンス)が6つのステークホルダーの5年あまりの論議を経て策定されたこと、そこでNPO/NGOがリーダーシップを発揮したことなどはご存知の通りである。国連やILO(国際労働機構)でもCSRの論議が進んでいるが、いずれもステークホルダー間の十分な論議と合意を前提としている。“CSV”を導入するにしても、しっかりしたCSRをベースにする必要があることは明らかだ。

なお、社会・環境問題の解決を主な目的とするビジネスについては、1990年代から、欧州を中心に取組まれてきた「社会的企業」の運動があり、現在では「世界フォーラム」が形成されている。10月にはアジアではじめての大会がソウルで開催され、世界各地の地道な取組みが注目され、ステークホルダーの参加、公共政策によるバックアップなどが論議された。韓国では2007年に「社会的企業法」が施行されている。

いずれにしても、貧困、人権や環境の対策がビジネスの競争理論と結びつけられる時代である。社会的な事業について、NPO/NGOをはじめ、消費者、労使団体などのステークホルダーのウオッチや参画がますます期待される。