国際NGOのSRへの取り組み―AAR Japanを例に(AAR Japan[難民を助ける会])
国際NGOのSRへの取り組み―AAR Japanを例に
松本夏季、堀江良彰(AAR Japan[難民を助ける会])
AAR Japan[難民を助ける会]は、紛争や災害時の緊急支援、障がい者支援、地雷・不発弾対策、エイズやマラリアなどの感染症対策、啓発(国際理解教育)を活動の柱として、世界15ヵ国で活動する国際協力NGOです。1979年の創立以来、世界60を超える国や地域で活動してきました。
少しずつ浸透してきているNPO/NGOのSRですが、私たちのように現場を持つ国際NGOがSRに取り組むには、まず何から着手したらいいのでしょうか。AARの例をご紹介します。
2013年7月、「ISO26000推進委員会」を立ち上げました
AARでは、難しく考えずにとにかく着手してみようと、まず2013年7月に会内にISO26000推進委員会を組織しました。担当者の負担をなるべく減らし、通常業務の一環として取り組めるように、7つの中核課題についてそれぞれ関連の深い業務の職員を選任。月一度の頻度でミーティングをしながら、各担当の課題への取り組みを進めています。たとえば「消費者課題」への取り組みでは、これまで担当チームのみが把握していた当会に対する苦情やお褒めの言葉を共有する掲示板を事務所に設置しました。これにより、ご寄付をくださる支援者の方々を身近に感じ、活動を支えていただいているという意識を職員一人ひとりが持てるようになりました。他にも「組織統治」では、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)が推進している「アカウンタビリティ・セルフチェック(ASC)」の実施、「人権」では職員からの苦情に対応する「ハラスメント委員会」の設置を検討したり、「環境」では紙の使用量を減らすようにするなど、小さなところから試みを始めています。私、松本が担当している「コミュニティ参画・発展」では、AARの東京事務所がある品川区との関係を構築し地域社会の一員としての責任を果たすことを目標に、品川区主催のイベントに出展したり、区民のための活動情報サイトへの書き込みを増やしたりしています。
国際NGOならでは?現在の課題
AARは日本生まれのNGOの中では規模が大きく、2014年3月現在、国内専従職員47名、海外駐在員27名、海外の現地職員もあわせると300名近い職員を抱えています。そんな私たちがISO26000に取り組む中で、いくつか課題も上がってきました。対処方法も合わせ、いくつかご紹介します。
- 会内でのルールの決め方が不明確
各職員の小さな心掛けも重要となるISO26000への取り組みですが、共通のルールを一つ決めるときに、どのように意思決定をすればいいのか迷うときがあります。たとえば「環境」課題への取り組みとして、紙の使用量を減らすために印刷のルールを見直そうとしていますが、そうした小さな決め事であるほど、どのようにルールを作り、浸透させていくべきか悩みます。ISO26000推進委員会の決定と呼び掛けで足りる課題と、幹部や理事会の意思決定が必要な課題を分け、とにかく活動を止めないことが重要であると考えています。 - 進捗状況が定量評価できない
色々と取り組みは始めましたが、活動の結果が数値で表れるものばかりではないため、会内でのモチベーションの持続や他の職員の説得、外部へのアピールが難しくなっています。そのため、2014年度は、「重要性と要実現性マトリクス」の使用を検討しています。 - ISO26000に対する関心に、会内で温度差がある
ISO26000推進委員会だけが躍起になるのではなく、会内報を利用する、全体会議の際に進捗を報告するなどしながら、全職員の意識を高めるよう努めています。
ゆくゆくは海外事務所でも
今ISO26000に取り組んでいるのは東京事務局だけですが、将来的には東北事務所や現在18ヵ所ある海外事務所でも取り組みを進めていきたいと考えています。そのためには東京事務局員をはじめ、駐在員、現地職員にも意義を理解してもらい、積極的に関与してもらうことが必要です。まめに進捗報告を行いながら、どの事業地でもきちんと社会的責任を果たす組織に成長していければと思います。
事務局長からのコメントNPO/NGOは、何らかの社会的課題に取り組んでいる存在であるため、自分たちの抱える課題の解決には熱心な一方で、自組織自身のSR(社会的責任)への取組みが遅れがちになることがあります。ISO26000は2010年11月に発行しましたが、その直後にAARの職員にこの話をしても、なかなか関心を寄せる人が少ないと感じていました。昨年、会内にISO26000推進委員会ができ、少しずつ取り組みが進んでいることを大変心強く感じています。ISO26000が、認証規格ではなく、ガイダンス文書であることを考えると、持続可能な発展の実現のためのこの規格の精神が職員一人ひとりに浸透し、組織を挙げての取組みになるよう、引き続き努めていきたいと思います。 |