NPO/NGOが、自組織の専門性をとおしてSRに貢献する時代へ(参画プラネット 中村奈津子)
NPO/NGOが、自組織の専門性をとおしてSRに貢献する時代へ
中村奈津子(特定非営利活動法人参画プラネット 常任理事)
「企業の社会的責任(CSR)」を問われた時代から、「あらゆる組織の社会的責任(SR)」を問われる時代が来ています。この認識は、2010年、SRに関する国際ガイドライン規格ISO26000の発効によって世界共通のものとなりました。ISO26000の説得力と信頼性は、主に発展途上国側の要請から検討が始まり、策定のために9年を費やして世界91ヶ国と42機関が参画したこと、さらにはマルチステークホルダーと呼ばれる、6つのセクター(政府、産業、労働、消費者、NGO、その他有識者等)から435名が関わったことなどにより、「世界で最も広く合意を得た規格」だと言える点にあります。これに加えて、わたしはもう一つの点を規格の妥当性において高く評価しています。それは、策定に関わる人のジェンダーバランスが配慮され、約4割が女性だった、という点です。
NPO法人参画プラネットは、「女性も男性も「個」としての能力を最大限に生かすことが出来る社会の実現を目指し、家庭・地域・学校などのあらゆる場に、一人ひとりがバランスよく参画できるアクティブな市民社会の構築」を設立目的として活動している団体です。ジェンダー課題について取り組んでいる団体が、同時にSRを推進する活動に参画していることは団体の活動と矛盾するものではありませんが、それを意外に受け止められる方が少なくないのも事実です。SRへの認識が広がりつつあるとはいえ、そのようにジェンダーとSRの関連性を問われることは、日本の多くの組織活動において、まだまだSRの視点からみてもジェンダーという人権課題が重視されていない状況の表れの一つに思われます。
ISO26000における人権の重要性については、CSOネットワーク、黒田かをりさんが執筆された本コラムでもすでに確認されました。人権への取組み、つまり人間の尊厳と人的多様性の保障はこの規格の本質であり、それがマルチステークホルダーによって世界共通のものとして確認されたことの影響力は大きく、SRにおける人権の重要性の認識はすでに、日本でも急激に高まりを見せています。ちなみに人権に含まれるジェンダー課題のISO26000における位置づけは、7つの中核課題よりも前段階の、規格の基本的な部分に整理されています。だからこそ、わたしは冒頭で言及したように、策定からジェンダーバランスの配慮を実践したISO26000の規格を評価しており、この規格の今後の活用にも大きな期待を寄せています。
翻って、規格ができれば自動的に取り組みが進むわけではありません。組織がどのように取り組めばジェンダー(人権)課題の解決が進むのか。その具体策や具体的戦略を、専門性をもったNPOの一つとして示し、他の組織・セクターとともに推進していく役割を、わたしたちは担っていると思います。おそらく、このことはジェンダーだけではなく、あらゆる分野の課題全てにおいて同様に言えるのではないでしょうか。それぞれの課題に特化した専門性を有するNPO/NGOこそ、今後より一層、他の組織・セクターとともに専門課題においてSRをすすめる一助となる責務があると考えています。
最後に、余談になりますが、わたし自身は2014年4月から、SRとジェンダー(日本においては「男女共同参画」も含まれます)をテーマに、龍谷大学大学院のNPO・地方行政研究コースで学ぶ機会をいただきました。龍谷大学が本コースで有する「地域連携協定」という仕組みは、大学が団体(自治体、市民活動団体等)と協定を結ぶことにより、学びと実践の場を多様にクロスさせ、地域の発展に貢献する人材の育成を目的としており、こうした仕組みもまた、SRの視点から見たとき、持続可能な発展に貢献する仕掛けの一つと言えるように思います。わたしもこうした機会を活かし、SRの取り組みを進めるための実践研究を目指します。SRの進化・深化へ向けては、道筋の可能性が多様に開かれています。さまざまな手段・手法でSRが発展していくことを、心から願っています。