「企業と人権」枠組み ― NPO/NGOの役割とは (CSOネットワーク 黒田かをり)

「企業と人権」枠組み ― NPO/NGOの役割とは

黒田かをり(一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事)

 NNネットが策定に関わり、発行後、普及・啓発に力を入れているISO26000(国際標準化機構の社会的責任の国際ガイダンス規格)は、人権を重視したガイダンス文書です。社会的責任の原則に「人権の尊重」をおき、中核主題にも「人権」の章を立てていることからも明らかです。この「人権」の章に大きな影響を与えたのが2008年に提唱された「保護、尊重、救済」枠組みです(以下の図参照)。

「保護、尊重、救済」枠組み

参考:Oxfam International, ‘Business and Human Rights – An Oxfam perspective on the UN Guiding Principles (2013)

 2011年6月、この枠組みを具体化するために「ビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles)」が国連人権理事会の総会で採択されました。この指針の作成には多様なステークホルダーとの協議が重ねられました。この枠組みと指導原則は、ISO26000だけでなく、OECD多国籍企業ガイドライン、グローバルレポーティングイニシアチブのGRIガイドライン、投資と融資に関わる赤道原則の改定や、企業や産業界の独自のガイドラインなどに大きな影響を与えており、ビジネスと人権に関する基本的な指針となっていると言ってよいでしょう。

 日本国内でも多くの企業が指導原則に注目しています。日立グループは今年の5月に、指導原則の実行を通じて人権尊重の責任を果たすという人権方針を内外に示しました。

 この枠組み/指導原則を積極的に活用しようとするNPO/NGOの動きも活発になっています。オランダに本部をおくSOMOという団体は、NPO/NGOが企業調査や企業に対する提言活動を行うために指導原則を活用する方法を手引書で表しました。国際NGOのオックスファムは、ユニリーバー社のベトナム法人で、指導原則を用いて結社の自由、団体交渉権、Living wage、労働時間、契約労働に焦点を合わせた調査を実施しました。

 枠組み/指導原則は、日本のNPO/NGOには一部をのぞき、まだそれほど浸透していないと感じます。次の点から、NPO/NGOが指導原則を活用することを推奨したいと思います。

 企業や他組織の人権の影響の評価、あるいは人権への負の影響があった場合に改善や救済手段を整える上で、NPO/NGOが果たす役割は大きいと考えます。特に、支援している地域などで起きうる人権問題の解決や非司法的救済には、他のステークホルダーとの協力、連携が必要になることが多いためステークホルダー間の対話や協議、マルチステークホルダープロセスを推進することが重要になります。

 また、NPO/NGO自身が自組織や活動分野において人権尊重を確実にするためにも指導原則を活用できると思います。 

 人権尊重は、関係するあらゆるステークホルダーがそれぞれの役割と責任を果たしながら行うことが肝要であり、この指導原則はその共通の土台となるものと期待しています。

【参考資料】
○オックスファム:
 http://www.oxfam.org/en/policy/business-and-human-rights ※英語ページ
○SOMO:
 http://somo.nl/publications-en/Publication_3899 ※英語ページ
○日立グループ人権方針:
 http://www.hitachi.co.jp/csr/renew/pdf/human_rights_policy.pdf 

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