SRフォーラム2012レポート–SRフォーラム5.17全体会 基調講演と事例提供

2012-07-09 16:21:17
こんにちは、社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク事務局です。

5/17・18に開催いたしました「5/17-18 SRフォーラム2012―社会的責任(SR) から社会的信頼(SR)へ」のレポートを掲載していきます。

まずはオープニングフォーラムからです。

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<基調講演>

 企業(CSR)と人権 ISO26000とビジネスと人権に関する指導指針 白石 理 氏 一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター (ヒューライツ大阪)所長  

 CSRは2000年の国連グローバル・コンパクト以降国際的な課題になりました。その後、2011年のOECD多国籍ガイドライン改訂の際に人権の章が加筆されました。2010年11月発行のISO26000において、CSRからSR「(より広い組織の)社会的責任」へと舵がきられました。   
 ISO26000には、7つの原則があり、その一つに「人権の尊重」が掲げられているように、中核主題の中でも人権は他の6つの主題のベースとなるべきものと位置付けられています。環境や組織統治といった他の主題を支流に例えるなら、人権はそれらが流れ込む主流であり、この考え方を軸にISO26000は作られています。   
 人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する事務総長特別代表ジョン・ラギー氏によって、企業と人権に関するレポートが国連人権理事会に4本提出されていますが、2008年に提出された「保護、尊重及び救済」枠組みでは、企業には人権を尊重する責任があるとしています。そして、2011年6月に出された「ビジネスと人権の指導原則:国連『保護、尊重および救済』枠組みを実施するために」では、人権を尊重する企業の責任として、国際人権基準を知ることや、人権デュー・ディリジェンスに留意することを挙げています。デュー・ディリジェンスとは、活動による影響を予測し未然に対処すべき義務を意味します。   
 「保護、尊重及び救済」枠組みでは、人権侵害を受けた際の救済へのアクセスを掲げており、その救済の仕組みが人権に適合しているかも要件としています。例えばオリンパス社の内部告発者が免職になった事例の場合はこの要件を満たしていないことになります。    
 上記の人権の国際基準は互いに矛盾するものではなく、特にラギー氏による徹底的な先行事例調査と世界的なマルチステークホルダー協議により、「ビジネスと人権の指導原則」は他のガイドラインとほとんどが重なりあい、どの場面でも受け入れられるものとなっています。    
 人権は普遍的で世界共通のものです。1948年に出された世界人権宣言こそが、人権の国際基準の基であり、企業の人権尊重の基でもあります。「ビジネスと人権の指導原則」等について、企業からは「理想であり現実には無理」との反応が多いですが、多くの日本人が人権について学び考えることで企業の人権への取り組みが進んでいくのではないでしょうか。

<事例提供>   

 マルチステークホルダープロセスの実践事例として、市民団体から社会福祉法人カリヨン子どもセンター 事務局長・石井花梨さん、会社からは株式会社ラッシュジャパン  チャリティ&キャンペーン担当・秋山映美さんにお話をしていただきました。

 石井さんは、日本初の民間による子どもシェルター設立や子ども自立支援ホームの運営において、同センターが目指している『スクラム連携』の紹介がありました。子どもの人権を守るため弁護士や児童相談所等の行政部門、学校や病院、施設のボランティアなどが、互いにつながるだけでなく、子どもを中心としてそれぞれの分野の強みを持ち寄り、支援が重なり合うよう意識しているとの報告を通じ、子どもを認め、寄り添うというメッセージの具体策にマルチステークホルダープロセスの有効性を感じることができました。  
 秋山さんからは、企業も社会の一員として課題解決に取り組むことを当然という理念に基づき、本社の担当部門に留まらず、全国各地の店舗の従業員と商品を購入してくださる顧客とともに取り組んでいる活動が紹介されました。環境保護、動物福祉、人道支援・人権擁護の分野で草の根の活動を行う団体向け助成プログラム『LUSHチャリティバンク』や社の理念に沿ったキャンペーン実施時に、店頭実演販売という強みを活かし、従業員が業務の一環で顧客や社会にメッセージを広める役割を果たしている具体例が、数多く紹介されました。両者の報告に共通していたのは、明確な組織のミッションのもと、その実現に向け、自団体の立ち位置を定めつつ複数のステークホルダーを巻き込み、つながりあいながら取り組んでいる姿勢でした。また従業員等の担い手への教育の有り方についても示唆に富む事例提供となりました。
  
 ディスカッションの時間は、CSOネットワーク理事・事務局長の黒田かをりさんのコーディネートで進みました。まず2団体からの事例報告を振り返り、白石さんから、どちらも根本に「人を大切にして活動する」という理念があり、それを具体化した事業を行っている点が素晴らしいとの感想をいただきました。続く石井さん、秋山さんとのやり取りの中では、ビジネスの中で人権に取り組むにあたっては、関わる職員の人権への配慮が今後も課題となるという点、そして人権は活動理念に含まれるものであり、それを事業化してこそ企業の価値になるため、全体的なまとまりをもって発信していけると企業価値も高まるという点を共有できたように思います。それにはマルチステークホルダープロセスでの取り組みが、やはり有効だという確認もできました。   
 最後に人権の主流化の、国内での見通しについて話題となり、白石さんから人権へのより深い理解と事業への反映に向けては、教育への取り組みが不可欠だとのご指摘がありました。人権とは、社会で一人ひとりが幸せになるための道具であり、組織活動もそのことをふまえて行われれば、利益の追求と人権の尊重にジレンマはなくなる、というコメントは、フロア全体に、確かに響いたように思います。短い時間でしたが、非常に内容の濃いディスカッションでした。

執筆者:(一財)CSOネットワーク 長谷川雅子    
      (特活)参画プラネット   中村奈津子   
      (特活)国際協力NGOセンター(JANIC)   松尾沢子