連続SRセミナー2016 第3回「ビジネスと人権に関する国連指導原則」開催報告

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2016年度の連続SRセミナー第3回目は、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」をテーマに開催しました(12月20日開催)。登壇者は、山田美和さん(独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所)でした。

以下、山田美和さんの報告内容です。

1.ビジネスと人権に関する国際的枠組みの主な動向

2011年に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」は、「人権を保護する国の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの原則からなっている。多国籍企業の活動が及ぼす途上国などへの経済的インパクト、つまり負の側面と、それを適切にコントロールできない国際社会の能力とのギャップ(ガバナンス・ギャップ)が背景にあった。

「指導原則」後、毎年ジュネーブでビジネスと人権フォーラムが開催されてきている。11月に開催された今回は2500人の参加があった。参加の内訳をみると、企業は24%、市民社会は30%だった。そこでのラギーの基調講演では、SDGs(持続可能な開発目標)のコアな部分は人権尊重であることが示された。

フォーラムの主要なテーマは「責任あるサプライチェーンと人権デューディリジェンス」「移民労働者問題とリクルートメントの仕組み」「金融と人権」「メガスポーツイベント」「公共調達」「ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)」だったが、「金融と人権」がテーマの一つとなったのは今回の特徴でもあった。

2015年のG7エルマウ・サミット首脳宣言でも、ドイツのメルケル首相の強いリーダーシップのもと、「責任あるサプライチェーン」の部分で「指導原則」とNAPへの言及がなされたが、G7国には、サプライチェーン上の人権侵害がないようチェックして公開することを求める法律が制定されている例もある。

2.ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)をめぐる動向

NAPは「指導原則の運用・実行について各国政府が立案し執行する政策文書」だが、①政府が指導原則の運用・実行へのコミットメントを内外に示すことができる、②企業にとっては、政府が方針を示すことによりレベル・プレイング・フィールド(公平な競争環境)の形成が促される、③策定プロセスでの多くの関係者の関与により意見交換と信頼醸成の建設的な機会が生まれる、といったメリットがある。

12月16日に公表した米国を含め、12か国が策定している(※12月末現在で13か国)が、ジュネーブのフォーラムでは、日本政府からも「今後数年以内に」策定するとの言明があった。

「責任あるビジネス行動」と名づけられた米国のNAPは日本への刺激にもなるかもしれないが、レビューとエンゲージの仕組みが入っていない。一方、例えばオランダのNAPでは議論のプロセスが盛り込まれており、プロセス重視の姿勢が見てとれる。国連のワーキンググループによるNAP作成のガイダンス文書もご覧いただきたいが、政策の一貫性が必要であることから省庁をまたいだ施策が必要であること、ドラフト作成よりもその前段階でのマルチ・ステークホルダーでの議論が重要であること、海外だけの問題ではないこと、などが留意すべきポイントと思われる。ちなみに、ICARからは次の5点がNAP作成のポイントとしてアドバイスされている。― ①省庁の横断的関与、②幅広いステークホルダーグループとの意味のあるコンサルテーション、③現況の基礎調査の必要性、④NAP自体へのフォローアップの仕組みの組み込み、⑤規制と自主的メカニズムの“スマートミックス”。

NAPの策定は国としての選択肢の一つであり、指導原則は法的拘束力がなく生ぬるいとする考え方もある。法的拘束力のあるものを作ろうという動きもある。南アフリカは作らないという選択をしている。そういう視点も踏まえたバランスのとれたNAPが作れたらよいと思っている。

3 グループでディスカッション

後半は、参加者が小グループに分かれて議論し、政府、企業、市民社会にそれぞれ何ができるか、どうすべきか、を出し合いました。以下、その主な内容です。

(政府として)

  • 政府としては新しい政策をつくることが必要。
  • 政府には、NAP策定の過程で、労働環境に関わる政策を含めてほしい。長時間労働の問題、技能実習生の問題など。

(企業として)

  • 関係部署以外の社員への意識づけと、人権の捉え方をグローバルスタンダードに広げていくことが必要。
  • 企業内ではCSRはなかなか理解されないので、政府かCSOがつくって政府が採用した一定の基準をガイドとすることが必要。
  • 人権尊重とSDGsを連動させて促進し、アドボカシーアクターになってレベル・プレイング・フィールドを確保してほしい。
  • 企業はグローバル基準にそった人権方針をもつべきで、自社製品と人権との結びつきを社内で啓発することも必要。

(市民社会として)

  • 市民社会はNAP作成に関わるべきで、現状調査をNPOがすることも意味があるのではないか。
  • 市民社会は、サプライチェーンでの問題を企業に伝えてほしい。企業のよい取り組みを発信することも大切。社会・環境的なリスクは企業にとっての経営リスクでもある。

4.質疑応答

  • NAPの策定過程に声を届けることが大切で、その際、セクターをこえた対話が必要だが、それはどうすればできるか?
    →こうした会をもっと開催すべき。
  • 人権尊重とSDGsの連動した促進はあるか?
    →SDGsの前文では人権について述べられており、ジュネーブのフォーラムではラギーの素晴らしいスピーチがあった。「カーボンオフセットは人権にはない」と。人権を侵害しない、差別をしないというネガティブな面だけではなく、プラスの方向にもっていくというポジティブな面もあることを知ってほしい。
  • 当事者団体や運動との関わりはどう考えればよいか?
    ⇒ジュネーブでのフォーラムでは鉱物系企業に人権侵害を受けている市民社会組織が参加していた。今年は金融がテーマだったので人権系の組織は少なかったが、世界には人権活動家が抹殺される社会さえある。フォーラムの議論が人権侵害の現実から乖離することもありうるので注意が必要。

以上

 

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