浸透するか、NPOのSR(日本NPOセンター 新田英理子)

浸透するか、NPOのSR

新田英理子(認定特定非営利活動法人日本NPOセンター 統括部門長)

※本コラムは、日本NPOセンターのWebサイト内の「視点・論点」に掲載したものを一部構成し直したものです。

投票なくしてSRなし?!

2013年7月22日に実施された、第23回参議院議員通常選挙(参院選2013)の投票率が全体で52.61%*1と、過去3番目の低さだったことに大きな衝撃を受けました。私はこの投票率の低さに、ある種の恐怖を感じました。政府は、投票率のアップを目指し、今回から初めてインターネット利用の解禁を行いました。また、2003年12月から期日前投票の導入もしています。仕組みと環境はかなり整っていると思いますが、約半数近くの方が選挙権を放棄したことになります。堅苦しい言葉を使うと「社会的責任」を全うしている人と「社会的責任」に対して無関心な人の格差が、大きいということの表れではないかと思います。

投票しない人は、「そもそも選びたい人がいない」、「どの政党も選べない」というかもしれませんが、現在の選挙の仕組みでは、行かなければ棄権となってしまうのです。選びたい人や政党がいなくても、候補から選ぶか、正々堂々と白票を投じ、選挙に参加することが重要です。選挙で私たちひとりひとりが選んだ議員や政党によって、私たちの税金の使い道は決定されます。テレビの街頭インタビューに答えても、SNSで発言をしても、選挙にも行っていなければ本末転倒です。「投票率50%を越えなかった自治体は、選挙のやり直しをするくらいのことがなければ、この国の民主主義はますます危うい」と、日本NPOセンターのスタッフ間で議論をしました。今回の参院選だと10の都道府県ではやり直しをすることになります。

選挙の投票率の低さから社会的責任の格差を問題視するのは、やや議論が飛躍しているでしょうか。
私自身は責任を引き受ける人と、責任を引き受けない人の格差が開いていることや、組織がリスクヘッジばかりを気にする風潮に危機感を抱いています。リスクを前向きにとらえ直し、リスクヘッジの視点を超えて信頼の循環を自ら進めていくのが、「SR(社会的責任)」が言うマルチステークホルダープロセスであり、特に、NPO/NGOが今後ますます意識すべき概念ではないかと考えます。

SRを果たす具体的なツールとしてのISO26000

SR(エス・アール)は、Social Responsibilityの頭文字をとったもので、直訳すると「社会的責任」。「あらゆる組織の社会的責任」と言われています。CSR(企業の社会的責任)という概念の方が、より馴染みがあるため、対比で説明するならば、CSRの「C(Corporate)」をとって、企業だけでなく、組織として社会に存在しているのであれば、どのような組織でも社会的な責任を全うしながら活動を行うことが求められている、ということでしょうか。

持続可能な社会の実現のためには、企業だけでなく、社会の構成メンバーであるあらゆる組織にも社会的責任が求められるとする考えから、2011年11月には、ISO26000も発行されました。この「ISO26000」というのは、国際標準化機構(ISO)が社会的責任に関する国際規格をガイダンス文書として発行したもので、2001年4月から議論が進められ、9年後の2010年11月にやっと策定されました。あらゆる組織の社会的な責任を国際的に決めようというのだから、その決め方そのものも、マルチステークホルダープロセスが重視され、第9回目の国際会議(ISO WG/SR総会)では、99カ国が参加し議論を重ねて策定されたのです。

その国際的な議論に日本NPOセンターも、ネットワークのメンバーとしてかかわってきました。2008年5月には、「社会的責任に関するNPO/NGOネットワーク(以下、NNネット)」を立ち上げ、幹事団体と事務局を担っています。現在ネットワークに会員として参加しているNPO/NGOは40団体と少ないですが、その輪が広がりNPO/NGO自らが社会的責任について議論する場を作っていきたいと考えています。

広めるぞ!NPO/NGOのSR

しかしながら、会員を増やすのは至難の業です。NNネットでは、SRのわかりやすいブックレットを作成したり、年に一度はSRフォーラムを開催したりしていますが、設立当初から会員数は微増です。理念はわかるが、会費(年2万円)を払ってでも参加したいメリットを実感してもらうのは難しいというところでしょうか。

私は、SR(社会的責任)に取り組むと、NPO/NGOへの支援者、寄付者、応援者が今よりも、もっともっと増えると考えるのですが、現状は「ファンドレイジング」の方に人気が集まっています。前出のISO26000では、SR(社会的責任)を全うするために取り組む中核主題を(1)組織統治、(2)人権、(3)労働慣行、(4)環境、(5)公正な事業慣行、(6)消費者課題、(7)コミュニティへの参加及びコミュニティの発展とし、一つ一つ解説していますが、やはり抽象的でわかりにくいです。少なくとも、これらの主題となっている事柄が何かについては理解をし、「配慮」を持って普段の活動に取り組む姿勢が出てくると、NPO/NGOへの信頼は増し、NPO/NGOへの支援者、寄付者、応援者が今よりも増えると考えます。

SRへの取り組みは、治療に例えると漢方治療のため、一朝一夕で成果を出すのは難しいです。
ただ、まずは第一歩。そこで、みなさんが、楽しく、そしてすぐに取り組める方法として、NNネットでは、新たな取組みとして、『「SR川柳大賞」~あなたのウィットが社会をよくする~』を募集しました。おかげさまで、たくさんの方にご応募いただきました。
大賞の発表は、11月1日、「ISO26000発行3周年記念SRセミナー」にて行います。ぜひ、ご参加のうえ、一緒にお祝いしましょう。

【脚注】
*1 投票率などは、総務省自治行政局選挙部の選挙結果を参考にしました。
   http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/sangiin23/index.html