【開催報告】SRフォーラム2024 「地域の持続可能性の向上に、なぜ人権が重要か – 外国人も『働き続けたい』と感じる地域づくりに向けて」

1993年の創設から30年を経た外国人技能実習制度は、今年、大きな転換点を迎えます。
「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」を目的とした同制度は、日本人の生産年齢人口が1995年以降減少に転じたことから、急激に利用が拡がりました。しかし、その本来の目的に適う運営がなされていないことから、人権上の深刻な課題が内外から指摘され続けてきたことなどを受けて、政府は「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」を設け、その最終報告書をもとに、今年2月9日には、関係閣僚会議で政府の対応が決定されました。本文 概要
技能実習制度の見直しによってようやく進められる外国人雇用の是正を皮切りに、地域の持続可能性の向上に、人権への取り組みがなぜ必要かつ重要なのかについて、有識者会議委員を務められた日本商工会議所・東京商工会議所の大下英和氏と、日本における多文化共生の端緒を開いたダイバーシティ研究所の田村太郎氏にお話を伺いました。(5月14日(火)開催)

◆ご登壇者
大下英和氏 日本・東京商工会議所 産業政策第二部 部長
1990年京都大学文学部卒。民間企業勤務を経て、1993年東京商工会議所入所。国際部担当部長、総務統括部長を務めた後、2020年より現職(2024年より東京商工会議所理事)。労働政策ならびにエネルギー・環境政策を所管。厚生労働省「最低賃金審議会」および「労働政策審議会(職業安定分科会など)」委員のほか、「地域雇用対策懇談会」、「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」、内閣官房・出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(2022年12月~2023年11月)などで構成員を務める。

田村太郎氏 一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事
阪神・淡路大震災で被災した外国人への支援活動を機に「多文化共生センター」を設立。自治体国際化協会参事やIIHOE研究主幹を経て、2007年に「ダイバーシティ研究所」を設立し、人のちがいに配慮のある地域や組織づくりに携わる。総務省「多文化共生の推進に関する研究会」、外国人の受入れ・共生に関する関係閣僚会議「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」、出入国在留管理庁「外国人支援コーディネーターの養成の在り方等に関する検討会」の構成員や自治体での「多文化共生推進プラン」策定のための委員やアドバイザーを数多く務める。復興庁・復興推進参与、関西経済同友会DE&I委員会委員長代行、大阪大学大学院および日本女子大非常勤講師。

◆趣旨説明 堀江良彰(NNネット幹事、難民を助ける会 理事長)
◆発題①「より広く・より多く・より長く ~地域経済の持続可能な発展に求められる外国人材受入と支援の在り方」
日本・東京商工会議所 産業政策第二部 部長 大下英和氏
今春まで開催されていた技能実習生制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の構成員を務めました。日本商工会議所は全国515商工会議所の連合体で、126万社の大半が中小企業です。
技能実習生の受入拡大に向け、「外国人材の人権重視」は大前提です。就労環境の整備など「選ばれる企業に向けた取り組み」、そして企業の取り組みと共に「地域に開かれた受入」も重要です。中小企業は、深刻な人手不足になっていて、物流などの2024年問題もあります。地方は二重の人口減少(若手流出、少子高齢化)が進んでおり、外国人材受け入れは進んでいるものの、技能実習生の失踪者も大きな課題になっています。失踪者はカンボジアの比率が高く、フィリピンは低い傾向にあります。来日前に平均55万円の借金をしてきていて、できれば高い賃金のところに移りたいというのが、彼らの思いです。劣悪な環境で働かせている例があるのも現状であり、課題は多く根本的な解決にはつながっていません。
好事例として、気仙沼にある株式会社菅原工業は、インドネシアからの技能実習生を受け入れています。日本人従業員に向けては、実習生に対する配慮について、紙で貼りだして理解を促進しています。様々な人たちの共生の場づくりを民間主導で行っており、インドネシア・フェスティバル開催やインドネシア料理店の開業などにより、地域や行政にも理解を促しています。
技能実習制度に替わる「育成・就労制度」では、外国人材の受け入れは、実習ではなく「人材確保及び人材育成」を目的とするものとなります。転籍制限については、分野ごとに、1~2年間の後に、同一業務区分内に限り、本人意向の転籍を認めることになります。「より広く、多く、長く」外国人材の受入れを進めるには、「外国人材の人権重視」を大前提に、就労環境の整備、日本語教育や生活面での支援など「選ばれる企業に向けた取り組み」、永住や家族帯同も見据えた「地域に開かれた受入」などが大切になってくると考えます。

◆発題②「生活者としての外国人受入れと持続可能な地域づくり 〜支援から共生へ、求められる「まなざし」の転換〜」
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事 田村太郎氏
地域の持続可能性という時代になって、ダイバーシティのブームがまた来たと思います。技能実習生を受け入れている職場の多くはまだ「昭和」感覚で仕事をしています。外国人に対してだけではなく、日本人にも多様なハラスメントや、深刻な労働災害が起きるリスクが高い危険な職場で、日本人が来なくなったから外国人を受け入れました。そんな職場が残った背景にはビジネスモデルの変化があります。携帯電話もプリンターも、通話料やインクで稼ぐようになったので、長持ちせず壊れてもよいような安いものをつくるよう、取引先から求められており、職場の改善が図れなかったのです。
全国の在留外国人の総数は、昨年末時点で約349万人。国籍、在留資格、年代・世代、居住地域、経済状況の5つの多様化が進展しています。外国住民は当初、若い人が多かったけれど、最近は高齢者も増えてきているのが現状です。子どもが学校を休んで親の通訳に行くこともありますし、健康診断も受けていない人が多いです。家族帯同可能な在留資格が全体の82%。近年の増加率が高いのは北海道や沖縄などこれまで外国人が少なかった地域です。
多様な外国人で構成される今日の状況は、1990年の改正入管法施行による日系人受入れと、技能実習など「労働者」ではない例外的な受け入れが進んだことによるものです。「例外」ですから、来日後の生活を国として政策で支えることは何もしなかった。そこを自治体が「国際交流協会」をつくって、住民がボランティアで支えてきたのです。
外国人に関する課題が深刻化しているのは、外国人支援者の担い手が不足しているからであり、日本語教員や通訳の確保が必要です。しかし現状のようなボランティアだけでは、外国人を支援することは無理です。地域の持続可能性を直視し、社会インフラ整備、付加価値の高い産業へ転換を図ること、つまり「まなざしの変化」が必要です。受け入れている企業の社長が悪いのではなく、受け入れている地域全体の問題として議論する必要があります。

◆討論:外国人も「くらし続けたい・働き続けたい」と感じる地域づくりに向けて
進行:IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 川北秀人 (NNネット幹事)

川北) 2010年から2020年までの10年間で164万人から274万人に増えた外国人は、わずかな年数だけ働いて母国に帰るのではなく、日本で子育てをし、介護も受けるという資格や多様なライフステージの人たちです。日本の人口総数は、2020年を100とすると、2040年88に減ると推計されており、生産年齢人口はこれまで20年間もこれから20年間も3割近く減り続けます。
現在は、技能実習生をはじめとした外国人が急激に増えている地域で課題が認識・指摘されていますが、一方で、日本人が大幅に減っているのに、まだ外国人の受け入れが進んでいない地域もあります。そういう地域の方が、今後を考えると、さらに課題は深刻で、地域の持続可能性をどう維持・拡充するのでしょうか。これまで10年を見ても、外国人が急増しているのは、都心部よりも、国際交流協会がないような農村漁村部であり、こういった地域で外国人の支援ができる多文化共生を支える人たちが必要です。しかも、この円安があと5年間続いたら、現在の技能実習生などの外国人は、もう日本に来てくれなくなるかもしれなれません。そういうことも含めて、これからの5年間で対策を打つ必要があります。
田村)現状は介護保険制度ができる前と同じで、家族とボランティアが現場を支えている状況です。外国人支援の担い手にお金を払って、仕事としてできる社会に変えなくてはいけないと思います。日本語を学べる機会もつくり、生活支援もきちんとお金を払ってサポートをすることです。プロを育てる財源の作り方は、介護保険システムから学んだらいいのではないでしょうか。日本語教室も、もっと行きやすい場所にするために、3か月通ったらどうなれるのか、きちんと伝えることが必要です。担い手不足を考えると、これからは多文化共生分野の人材も、外国人に仕事としてお願いするのことも必要ではないでしょうか。
川北)国際交流や多文化共生を推進する財源として、年末ジャンボ宝くじも使われていますが、まだまだ足りません。
田村)財源拡充のために、雇用保険に組み込んでいくことはできないでしょうか。
大下)地域の中小企業を会員とする全国各地の商工会議所にとって、もともと国際的な業務も、外国人の受け入れも、非常に難しい。もっと進める必要があるとは言われていますが、業種別の組合団体が担うにしても、ノウハウが蓄積されていないのが課題です。ワンストップセンターのような相談ができるところ、頼れるところが重要です。役所だけではなく、大学やNPOなども含めて、みんなで連携して外国人を受け入れる地域をつくってゆく必要があります。
川北)ワンストップセンターは、行政だけで運営するのではなく、経済団体もNPOも関与すべきです。監理団体や経済団体もお金も出すために、企業版ふるさと納税のしくみの活用もぜひ考えていただきたい。
田村)対話の機会を増やすことが大切です。今は特に、外国人とともに地域をつくってゆくことの重要性について、もっと地域住民に伝えてゆく必要があります。地域全体として、昭和時代のままの職場からの転換を図っていく努力が必要です。これだけ各国の所得水準が高まり、円安が重なっても、外国人が日本に来るのは、賃金以外の魅力があるからであり、その魅力をもっと地域の成長に結び付ければいいと思います。官民協働によるワンストップセンター、家族と安定した生活、宗教にも寛容な日本、そんなことが魅力につながるのです。
大下)人手不足の問題は、行政と民間が連携してサポートし、結果として地場の産業における解決を進めることが不可欠です。日本語教育についても、標準語の日常生活用語だけでなく、方言や専門用語も学ばないと、意味がありません。いろいろな業種によって、使う日本語も違います。
今や、外国人も日本人もSNSで発信しており、事業者もこれからどうなっているのかを学ぶ必要があります。他の企業や地域を見ることで環境整備も促されます
川北)商工会議所も、人口構成や就業構造(を左右する人口密度)を踏まえて、都心部型や農山漁村部型などの特性別に、互いに学び合えるユニットや機会が必要ですね。2030年代に向けて、個々の特性を踏まえた持続可能な地域づくりを進めるためにも、ワンストップセンターには、国が一律的に予算分配するのではなく、企業伴ふるさと納税など、地域の企業のお金も活用できるしくみを整え、柔軟に運営したいですね。

◆質疑応答:これからは、どういう魅力が大切か?
田村:技術の進歩で、働く場所と暮らす場所が分離し始めました。テレワークや二拠点居住も定着しました。ドバイは3年前に「テレワークビザ」を出して移住を呼び掛けています。ドバイには住民税がないですが、日本でそんなことができるでしょうか。外国人の場合、日本で暮らすか、母国とつながるか、分断が進みます。ウクライナの避難民も、母国の学校にオンラインで参加することもできるのです。そのことをどこまで許容できるのでしょうか。今までの制度に会わない人が損しないように、自分たちの地域が魅力的になることが必要です。実習生をスポーツ大会に引っ張り出すなど、地域に交わることでつながりをつくってゆくことが大切だと考えます。

◆まとめ
多様な地域の未来に適したしくみづくりは、国が画一的に設計するのではなく、官民で連携して制度設計する必要があります。持続可能な多文化共生社会を支える仕組みづくりに向けては、地域の力の組み合わせが大切。地域は画一的な施策の下で争い合うのではなく、ワンストップセンターに雇用保険やふるさと納税などを活用できるといった工夫やアイディアが求められます。すでに大阪では、厚労省系の事業である若者の就労支援に、URや府営の住宅を組み合わせたサポートが、NPOとの協働で進められてます。