【開催報告】 2023年度第4回SRセミナー「NSR解体新書 ~NPO/NGOの社会責任を聴き解く~」

NNネットは、企業が社会責任(Corporate Social Responsibilities: CSR)と同様に、よりよい社会づくりを担うNPO/NGO自身も社会責任(Nonprofit Social Responsibilities: NSR)にしっかり取り組むことが大切だと考えています。一方、日々の活動で忙しい、人材が不足している、資金的に難しいといった声も聞かれます。実際にどう進めているのか、取り組んでみてどういう効果があったのか等について、2012年に発足した「NSR取組み推進プロジェクト」に参画する3つの団体から、ご発表いただきました。(2月13日(火)開催/ご参加者約20名)

【事例発表】
○辻桂子さん(認定特定非営利活動法人かものはしプロジェクト 経営企画・管理部)
かものはしプロジェクト(以下かものはし)は2002年に設立されたNGOです(2023年現在、事業規模約4億円、職員26名)。カンボジア・インド・日本で活動を続けてきました(注)。変化する社会情勢のもと、「子どもが売られない世界をつくる」というシングルイシューではカバーしきれない課題も増え、創業者3名を中心とした組織体制にも限界が見えてきたため、22年に「だれもが、尊厳を大切にし、大切にされている世界を育む」というミッションに変更しました。
これらにともない、組織体制の再構築に取り組んでいます。理事⻑の交代や専任の事務局⻑の配置など、役職兼任をやめて、機能しにくくなっていた会議体は解体しました。併せて、決裁権限規程を改訂して責任の所在を明確にしたことで、組織の意思決定が早くなり、透明性が高まりました。
そして、もともと在宅勤務体制でもあり、コロナ禍を経て、集まる機会が減っていたため、全体研修や全体会議で定期的に学び合う機会を提供することにより、新しいミッションを中心に据えた組織づくりにも取り組み始めています。
(注)2018年3月末にカンボジアでの事業を終了し、他団体に継承。

○小堀悠さん(特定非営利活動法人NPOサポートセンター 常務理事・事務局長)
NPOサポートセンター(以下サポートセンター)は、1993年に設立された中間支援組織です(2022 年現在、事業規模約9,000万円 、常勤10名、非常勤7名、プロジェクトメンバー12名)。昨年が30周年という節目の年でしたが、5年前に理事長が代わって、理事の世代交代も一気に進みました。
時代にあわせて活動や組織を更新する「モデルチェンジ」支援として、研修・コンサルティング、事務局運営サポートなどの事業を行っていますが、自身の組織でできていないことは支援できませんので、NSRの取り組みも、事業のベースづくりとして戦略的に進めています。自組織の体制の整備の経験を生かし、公正で中立性を担保した組織支援のメニューに整えていきます。
ここ数年の主な取り組みには、新任理事への着任プログラム実施、ペーパーレス化、二重窓とロールカーテン設置による省エネの推進、有休取得推奨、情報セキュリティの継続学習および訓練があります。ただ実施するだけでなく、数字を記録し変化を追って、その効果を可視化することが大切です。たとえば、紙使用量は、研修のオンライン化・電子契約・請求書等の電子化によって5年間で4分の1になりました。また、有給消化率は、有給取得ルールの変更や部署ごとの状況共有が功を奏し、50%から70%にまであがってきています。

○吉澤有紀さん(認定特定非営利活動法人難民を助ける会 事務局次長・広報コミュニケーション部長)
難民を助ける会(以下AAR)は、国内外で、紛争・災害あるいは障がいなどさまざまな理由によって社会的に弱い立場におかれた人々を支援するNGOで、1979年に創設されました。2022 年度収支は約26億円 、23年8月現在、職員は235名(日本国内職員61名・日本人駐在員21名・海外事務所職員133名)です。
15年にSR推進委員会(SRチーム)が発足、各部署から1名以上のメンバーで構成され、現在は7名で活動しています。チームでは、ISO26000の7つの中核主題にそった課題の洗い出しと取り組みの優先順位付けを行っており、その基となるのは、16年から継続している「組織をよくするアンケート」です。全職員から、組織全体と自分の業務上それぞれについての課題と原因・改善策について回答してもらいます。その集計・分析結果と取り組みの進捗状況を全職員に共有してきた結果、回答率は上がり(18年:51.4%→23年:86%)、組織への苦情よりも、改善へ向けた具体的な提案が増え、重点課題も絞り込まれてきました。課題の内容に応じて、タスクフォースをつくって取り組んでいます。成果と取り組み状況を繰り返し伝えることで、その成果の実感につながってきています。
新人研修では、SRと日常の業務はつながっていること、職員一人一人の問題意識と改善への取り組みが大切であることを伝えています。

【質疑応答】
続いて、川北秀人(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者)の進行で、参加者からの質問にお答えいただきました。

<Q1>(現場で事業を担当したいという人がほとんどで)組織体制を整えることに興味をもつ人材が入ってきません。どう育てればよいでしょうか?
●かものはしも苦労していますが、そういった人材の新規採用を考える前に、まず内部の意識向上が必要でしょう。たとえば、アカウンタビリティ(説明責任)の大切さを認識していないと、事業もうまく進みません。また、専門家であっても外部の人が変えていくのは難しいので、時間はかかっても風土づくりから!(辻さん)
●同じような相談をたくさんもらいます。サポートセンターでは、自分の業務だけ考えていては組織は回らないということを、2か月に1回行う全職員ミーティングや採用時にしっかり伝えています。また、一部の人だけ担当とせずに分担して、役割と機会をたくさんつくることも重要。マネジメントの経験を積んでもらう中で、向いている人や前向きに取り組んでくれる人を探すとよいと思います。(小堀さん)
●AARも現場で活動したい人がほとんどですが、SRに一緒に取り組んでもらい、共有していく過程で、自分事だと感じてくれるようになってきたと思います。自身の業務上の悩みがスルーされずに受け止めてもらえるとわかれば、組織への不信感は減り、期待感が高まるもの。成果や変化が見えてくると、主体的に取り組んでくれます。(吉澤さん)

<Q2>NGOは一般的に人材のローテーションが早く、出入りが激しい中で、職員のモチベーションをどのように保っていけばよいのでしょうか?日本の管理部門から海外の現地職員への浸透も難しいのでは?
●SRチームが各部署からのスタッフで構成されていることと、「組織をよくするアンケート」を継続してきたことが大きいです。取り組み成果や進捗状況は、必ず全スタッフに報告してきました。新人研修で詳しく説明しているため、新しいスタッフは積極的にアンケートに回答してくれていると思います。(吉澤さん)
●求人の際には、「あなたの社会人としてのバックグラウンドを生かしてください」というメッセージを入れています。企業で求められるSRは、NGOでも求められていると伝えることが有効。また、スタッフの不満・不安の解消の機会をたびたび設けて、SRの取り組みとして組織的な改善につなげています。(辻さん)
●SRは現場での活動の前提であり、不可欠であることを、研修等で理解してもらいましょう。外圧で仕方なくやるのではなく、内発的に進めていく(=先取りする)方が、かえって近道であることも示すとよいと思います。(小堀さん)

<コメント>
組織が大きくなってからSRに取り組もうと考えるのは間違いで、組織が小さいうちに始める方が楽です。日々の業務の質を上げるためにもSRは必須であり、まずはリスク管理から。人材育成にも間違いなくつながります。また、取り組み状況は内部で共有するだけでなく、年次報告書で開示し、社会からの信頼を高めていきましょう。(川北)