【開催報告】SRセミナー2021 第5回「東京2020オリンピック・パラリンピック『持続可能性』への取り組みの成果と課題」

「持続可能性」をテーマに掲げて開催された東京2020オリンピック・パラリンピック大会の閉幕から数ヶ月が経過しました。2021年12月には大会組織委員会が「持続可能性大会後報告書」を公表し、気候変動、生物多様性、人権・労働、資源管理・調達などの主要テーマごとに、取り組み内容や振り返りについて報告されました。
2021年3月8日に開催した本セミナーでは、主にこの「持続可能性大会後報告書」の内容を概観し、専門委員として提言を続けてこられた方々から取り組み内容についてお話を伺いました。(参加者13名)

【参考】東京2020オリンピック・パラリンピック大会 持続可能性報告書(大会前報告書、進捗状況報告書、大会後報告書)のページ
https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/report/index.html

発題 東京2020大会の「持続可能性」の取組みと「持続可能性大会後報告書」の概要について

川北秀人
NNネット幹事、IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者

大会前報告、進捗報告、大会後報告の3本立てで、持続可能性担保のための取り組みの経過を包括的に報告している。

大会後報告書では、5つの主要テーマごとに取組みがまとめられた。テーマ毎にワ―キンググループ座長コメントも掲載されている。
全体的に、達成された事は記述されているが、課題が残った事に関する内容、背景、その克服に向けた努力等の記述が不足している点が残念である。
人権テーマについては、大会直前のトップの言動等一連の問題、批判について、他国の場合は何か起こったか記録されているのだが、本書では詳細が書かれていない。

ご登壇者コメント

崎田裕子さん

ジャーナリスト、環境カウンセラー、(特)持続可能な社会をつくる元気ネット 前理事長
(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 街づくり・持続可能性委員会 委員、持続可能性ディスカッショングループ 座長、資源管理ワーキンググループ 座長
2025年日本国際博覧会 持続可能性有識者委員会 調達ワーキンググループ 委員

POを運営し携わってきた「循環型社会」実現に向けた動向を現場で知るため、その実践として評判だったオリパラロンドン大会の様子を取材、視察。その様子を書籍「みんなで創るオリンピック・パラリンピック-ロンドンに学ぶ『ごみゼロ』への挑戦-」(NPO共著、環境新聞社)にまとめた。

ロンドンではロンドンではオリパラを機に、市民とともに持続可能社会をつくっていく動きが進められた。東京でも取り組むべきと考え、東京大会の持続可能性WG座長、および専門である資源管理WGでも座長を務めた。

IOCには、環境など持続可能性への意識が早期からあった。
大会の関係者が共通認識を持つことが必要だったため、持続可能性運営計画を作成した。
調達ルールについては、NGOからは最後まで批判を受けたが、現在の日本の状況で出来ることをある程度行えたと考えている。主要5テーマについて明確な目標を策定できた。

一般の人が身近なところから取り組む仕組みづくりも必要だったため、ゼロ・カーボンや水素化社会に向けた取り組み、都市鉱山メダルプロジェクトなどが策定された。

食品ロスの課題については、開会式では40%ロスが生じたが、会期中に誤差削減、食事時間を必ず設けるなどの行動改善を行い、閉会式では大幅にロスを削減した。システム+行動+現場判断の組合せが重要であった。
大会中にかなり改善、対応を試みたが、やはりロスは残ったので、この経験を今後生かしてもらうことが大切である。

調達については、持続可能な調達コードをしっかり活用する必要がある。認証商品の活用が定着すれば大きく変わる。今後も大阪万博などのイベントや、日頃のビジネス、生活の中での活用が大切と考える。

冨田秀実さん

ロイドレジスタージャパン株式会社 代表取締役、ISO20400日本代表エキスパート
(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 持続可能な調達ワーキンググループ 委員
2025年日本国際博覧会 持続可能性有識者委員会 調達ワーキンググループ 委員

報告書では「国連ビジネスと人権原則に準拠した最初の大会」との表現があるが、これは言い過ぎで、まったく準拠はできておらず、言及したくらいであった。

調達については、総じて事務局は最大限の努力をしたと考えている。
・調達コードの策定プロセス
第1回会合から情報公開が一定程度進んだこと、メディアへの会議公開、詳細・人名特定での議事録公開、委員構成(NGO、業界団体、専門家など)の点から見て、よいプロセスだったと考える。
・コードの運用
コードの内容が、現実的に容易に達成できるレベルに落ち着いてしまった。確認プロセスでも、基準を十分達成しているとよく確認できたか否かは課題が残った。ただ、現在の日本企業の平均的な取り組みには遜色ないレベルであった。
適用した認証については、どの認証を遣ったのかなど細かい開示がなかった。苦情処理システムは、現在の日本企業に比べて、かなり踏み込んだ。現状ここまでできている企業はほぼないほど。
しかし、組織委員会以外にはコード準拠、運用がうまく動かなかったところもあった。

そもそもオリンピック・パラリンピックという大会の実施自体は、持続可能性の観点からすればマイナスであるから、どのくらい取り戻せるかがポイントとなる。今回のレガシーがいかに残るかが大切で、今後、都や日本スポーツ振興センター(JSC)が今回の動きを続けることが重要なのだが、残念ながらあまり続いておらず、ホストシティとしての気概が感じられない。公共調達などにおいて取り組みを続けることが必要なのだが、残念ながらそのようになっていない。

質疑応答

Q.あの時行えばよりうまくいった、課題に対しこんな対応方法もあった、と思う事は?

冨田:調達コードや苦情処理システムを、組織委員会のみでなく都・JSCと共通のものとして作れるとよかった。

崎田:選手の健康、テロ対策等の理由で細かく決められたIOC側のルールを踏まえつつも、検討できないかと提案した事項は殆ど通らなかった事も多い。食品ロス防止の準備、食器の再生利用など、もう少し強く要望し続けていれば、もう少しトラブルが減ったかもしれない。

Q.大会を経て、日本全体で持続可能性への意識は高まってきたと考えるか?今回のレガシーはどのように受け止められているか。

崎田:調達において持続可能性の観点を入れたことで、提供側がルールをクリアして参画してきた。この観点感t年が大事だと感じている人は増えている。次に繋げるのが大事で、例えば政府の公共調達に取り込むなどして引継いでいくべきである。

Q. 今後も東京オリンピック・パラリンピックの取り組みを活かすには、どのような工夫が必要か。例えば大阪万博では活かされるだろうか。

冨田:調達WGではやろうとしている。出発点が東京オリンピック・パラリンピックの調達コードで、ここから修正していこうという雰囲気がある。しかし、東京で課題であったことが充分克服できるかは未知数。
また万博ではオリンピック・パラリンピックと異なり、例えば木材については建物が一時設置なので終了後に廃棄される。オリンピック・パラリンピックと別の意識も必要になる。

崎田:始めから、大会後を考えた調達をしなければならない。(東京大会で実施した調達物品の99%リユース、リサイクル達成に向けて、困難をどう克服するか)

Q. ロンドン大会時に比べて、取り組みは進化したか?

崎田:イギリスは、仕組みをつくって運用することがもともと根付いている国だと感じる。認証の仕組みが市民にかなり浸透してきいた、という市民、関係者のコメントを多く聞いた。認証マークのついた商品をアピール、消費者もそれを買う、といった動きがある。

冨田:ロンドン大会時は、例えば漁業認証付きの商品を病院、学校などで購買する動きが広まったと聞いた。単純比較はできないが、日本ではいくつかの認証への認知は上がったものの、まだまだだと思う。

Q. 一般市民とのコミュニケーションに課題はなかったか?

冨田:一般市民との接点があまり持たれなかった。水素バスの運行など、レガシーとしての象徴も少ない。世の中に広めようという意向が少なかったかもしれない。

崎田:開催前の会議で、情報発信についてだいぶ議論した。結果として、なぜ、どういう取り組みをしていたかの発信が弱かったいと。会場内では、例えばゴミ分別リーダーの配置など、多くの人に体験し共感してもらう工夫を東京都が会場内では準備していたが、コロナで無観客になったため、体感してもらえず効果的な発信ができなかった。
今回準備したことを、今後さまざまな機会で活きるよう取り組んでいくことが必要である。

Q. 人権に関する取り組みは、環境関連のような可視化で認識するというより、より受動的に感じられるものだと思うが、能動的な取り組みにするにはどう進めたらよいか?

冨田:トップの人が人権意識の必要性を理解していないと進まない。教育の重要さを感じる。

崎田:今回、問題が起こったことにより、具体的に女性トップ登用などの動きは進んだ。

おわりに

崎田:今後も、例えば他のイベント等で環境配慮などの取り組みを続けるなど、社会全体の共有物として生かしていくことが大切になる。省庁でも、今大会のレガシーを生かし、例えば食品ロスを出さない新しいモデル事業の募集をするなど動きはある。

冨田:社会全体がここからどう変わるかが重要。市民社会側は、変化を起こすための種としてこうした大会の機会や実績を利用してほしい。