【開催報告】SRセミナー2020 第3回「ビジネスと人権に関する日本の行動計画の内容と課題」

2021年1月12日(火)、SRセミナー2020第3回をオンライン(Zoom)にて開催しました。

今回採り上げたのは「ビジネスと人権」に関する日本の行動計画です。

2010年、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準である「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で採択されました。この指導原則を受けて、2013年から各国が行動計画(National Action Plan、NAP)を相次いで発表。去る10月にはようやく日本政府(外務省)も公表しました。

行動計画(NAP)には、指導原則の3つの主要項目のうち「国の人権保護義務」と「救済へのアクセス」について国がどのような行動をとるか、そして「企業の人権尊重責任」について国がどのように促進・支援するかについての記述が求められています。 本セミナーでは日本のNAPについて内容を検証し、課題点や今後の取り組み方について議論しました。

◆「日本の行動計画(NAP)の策定過程、主な内容と課題」

一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)特任研究員

松岡秀紀さん 

まず松岡さんより、「ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォーム」の副代表幹事として、市民社会の立場から日本のNAP策定プロセスに携わってこられたご経験に基づき、策定のプロセス、発表されたNAPの課題点などをお話しいただきました。

○NAPの策定過程
・NAPは政府だけでなくマルチセクターで議論をして内容を決めるべきであったため、策定過程には市民社会プラットフォームほか産業界、労働界、法曹界などさまざまなステークホルダー団体が関わった。
・NAP策定にあたって政府は、まず現状を把握する「ベースラインスタディ報告書」を作成したが、そこではギャップ分析(人権への負の影響に対処するのに現状の施策で十分かどうかの検討)は行われず、デスクレビューによる現状施策の整理に留まった。
○策定されたNAPの主な内容
・ステークホルダー団体からの意見も一定程度は反映され、総論部分では指導原則に沿った記述も見られるが、各分野の具体的な「措置」は各省庁の現状施策の継続になっているものも多い。
・「社会全体の人権の保護・促進」を目指す、と掲げられたが、「社会全体」というあいまいな表現が前面に出てしまい、それが権利保持者(ライツ・ホルダー)である市民や消費者を指すのかが不明確な表現となってしまっている。
・社会的脆弱層、排除されるリスクが高い人々に注意を払うべきとの文言は、市民社会プラットフォームなどの意見が反映されたもの。

○今後の課題~NAPの実施・モニタリング・改定の中で
策定されたNAPに対し、市民社会プラットフォームからは「国際人権基準および指導原則に沿っていることが必要」「ギャップ分析が必要」「記述内容を実際に実施することが重要」などの意見を出した。
NAPは、記述内容を実施し、KPIに基づくモニタリングを行い、改定を5年後に行う仕組みとなっている。継続的に改善していく文書なので、初めの策定で終わりではなく、今後の取組こそが重要。

◆「日本の行動計画(NAP)に、企業とNPO/NGOはどう取り組みを進めるか」

認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ 事務局次長

佐藤暁子さん

次に佐藤さんより、特に企業における人権尊重の観点から、NAPの意義、企業の取り組みの現状や課題をお話しいただきました。

○NAPのもたらす意義
・政府が人権保護推進へのコミットメントの姿勢を公認したこと自体の意義がある。
・日本には独立した国内人権機関がなく、各国のような十分な調査や提言がされていない。その意味で、NAPを通じて企業活動へのルールを提示し、他のステークホルダーとの共通言語を定めたという意義がある。
・企業にとっては、社内での理解共有、取り組み検討の契機となる。たとえば環境、気候変動への取組、デジタル化、共生社会実現などの関連施策について、改めて人権観点を横串として理解、検討する機会とできる。

・人権保護への取組みは、自社や社会の持続可能性の向上に直結することを認識するべきである。

○企業による取り組み促進のためのヒント
・現在の取り組みと「人権」とのつながりを意識する
 :これまでも取り組んできている課題を、人権保護の観点から捉えることが必要。
例えば「ダイバーシティ、インクルージョン」と呼ぶ場合と「人権課題」として捉えた時に出てくる違いは、権利・義務関係が明確になること。何となくやるのではなく、労働者の人権を守るため企業が義務を果たすべく取り組む、と捉えれば、働き方改革、インクルージョンなどの施策も取り組み方、方法が変わってくる。
・若い世代の声をよく聞き、反映する
・「人権侵害」は身近に存在していることを共有する
 :人権侵害リスクをゼロにすることは難しいが、意識し継続的に取り組むことが重要。
・社会構造の課題に対しても企業から声を上げることができる。

◆主催者まとめと、登壇者によるディスカッション

・日本のNAPは既存政策の寄せ集めとなっており、本当に解決すべき課題を認識して書いたとは思えない政策なども入っている。救済などを担保するには、指導原則にしっかりと則った仕組みを作ることが重要である。

・政府は「人権」を特別なものと捉えているようだが、日常生活の中で人権を侵すリスクがあることを認識すべき。身近に考えるべきこと。

・文書では取り組みが数々並べられているが、実際に人権が侵害されている人たちの状況が改善されるとは思われないことも多い。

・人権課題に取り組むことをどう示したらいいか分からないという企業もこれまで多かったが、NAPが示されたことにより、企業の取り組みが推進されることを期待したい。

◆参加者との質疑応答、意見交換

○日本企業にもっとも欠けている活動とは?

・日本では「人権」と「権利」が別のもののように捉えられている。当たり前の「権利」という観点で日常的なことを深堀りする必要があるのだが、多くの企業ではそれができていない。

・日本でも、バリアフリーのように市場化されやすい分野なら非常に進んでいる。しかしギャップ分析をやっていないので、こうした進んだ部分のメリット等も示せないのが問題である。権利を保障することでどんなリターンが生じたか、など、プラス面の評価もできていないのは惜しい。

○企業の現場や担当者レベルでできることは何か?

・積極的に発信し、同じく疑問を持っている仲間をぜひ見つけてほしい。企業全体ではなかなか通らなくても、社内の上席の一人でも賛同者を見つけることから。また社外でも理解者、同志をつくることはできる。

○NPO/NGO自身も「ビジネスと人権原則」の実現に取り組まなければ、企業側が取り組む意識を持てないのではないか?

・人権に関する自団体の方針を宣言しているNPO/NGOもあり、非常に良い取り組みだと思う。

・実際に取り組み始めたところ、ハラスメント防止規定の追加、性的搾取防止の施策などが進み、職員の関心も高くなってきてくる。

・ドナーに対する説明という観点でも、団体自身の人権への取組み、その説明などは積極的に行うべきである。