【開催報告】SRセミナー2019 第3回 実践しよう!NPO/NGOのガバナンス強化~理事会改革の事例に学ぶ~

2020年1月14日(火)、SRセミナー2019第3回を開催しました。
今回は非営利組織のガバナンス強化「実践編」として、理事会改革の事例を3例紹介し、参加者とともに議論を深めました。

◆「ピンチをチャンスに変える組織改革~理事改選に臨む~」

公益財団法人日本自然保護協会 事務局長 鶴田由美子さん

・団体存続のため、新たな会員の獲得や収入増などを目指す必要があった時期に、抜本的な経営改革、組織基盤強化の必要性があらわになった。
・代表理事の交代後、事務局全員が参加して経営改善策の洗い出し、新事業計画を策定。それでも東日本大震災後の寄付減少などを受けて経営は厳しかった。
・「経営立て直しのための理事会」を目指し、評議員会と事務局が理事改選案を作成。候補者選びで意識したのは、属性・専門性のバランス、経営強化のため企業経営的な観点を取り入れること、団体運営への協力要請がしやすいこと。
・新理事と事務局とのコミュニケーションを密に取り、中長期事業方針を策定。理事会のパワーアップが若手スタッフも刺激し、全員が組織の目標を意識する雰囲気にも変わった。
・この変化の中、大型個人寄付も得て経営状況も改善。いまは受託・助成金を無理に増やすことをせず、寄付や会員の獲得強化に注力する方針をとっている。

団体存続のピンチをチャンスへと変えた、とても興味深い事例でした。理事会の改革は団体スタッフ全員で考えるべきことであり、またスタッフのモチベーションや経営状況に大きく影響することを改めて教えられました。

◆「チャンス・フォー・チルドレンの理事会運営事例」

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン 代表理事 今井悠介さん

・形式的な理事会ではなく、十分な議論、意思決定を行う場としている。条件付き採択やメール承認などもある。
・定例理事会のほかに、臨時理事会、メール理事会の仕組みも用意。災害時の迅速な支援開始や、業務上の過失対応等において効果を発揮。
・社外理事が団体運営に積極的に参加している。理事会出席率も高く、政策提言担当、ファンドレイジング担当など各理事に役割もある。
・理事会のほか、常務会、人事委員会などを置き、日々の迅速な意思決定とガバナンス強化にも配慮している。

機能する理事・理事会を確立する、どんな時も素早い意思決定を行う、人事の公平性・中立性を担保する、など組織経営の重要ポイントを押さえるための様々な工夫がされており、大変参考になる事例でした。

◆「事業モデルチェンジと世代交代を実現。NPOサポートセンターの6年間の取組み紹介」

特定非営利活動法人NPOサポートセンター 常務理事・事務局長 小堀悠さん

・委託事業比率が高く、自律性と持続可能性に課題を抱えていた。また理事会メンバーの世代交代も必要だった。
・6年かけて、事業と組織体制の改革を進めてきた。
事業については、自主事業の開発、継続性の高い行政受託事業の見極め、財源安定化を進めた。
理事会については、事業への積極的な参画や協力を得られる候補者を事務局スタッフ全員で選出。現在の理事会メンバーは40代が中心。

組織のトップ層や経営方針を大きく変える時には、十分な準備や議論が必要です。経営層も事務局スタッフも共に組織の将来を考え、大きな変革を実現した事例でした。

◆参加者同士の意見交換

3事例の発表後、参加者同志で疑問点や意見を話し合いました。

◆質疑応答

続いて質疑応答では、鶴田さんに「新たに加わった理事は、どのような貢献・効果をもたらしているか?」、「全国的な組織で、理事が首都圏近郊の在住・在勤者に集中することに反発はないか?」といった質問が寄せられました。鶴田さんからは、「企業との連携案件や紹介が増えるなどの効果が出始めている。遠方在住の方は頻度の多い理事会には出席率が低くなる傾向がある。特に地域についてご意見はいただいていないが、『参与』の任命者を増やし地方からの声も届けていただいている。」とのお答えがありました。
今井さんには「理事会の1回あたりの開催時間は?」「決議は全員一致か、多数決か?」「メール審議はどのように行われているか?」といった質問が寄せられ、「1回およそ2~3時間程度で、採決は全員一致をめざしている。論点が残る場合には継続審議とし、電子メールや次回以降で協議・採決。メール審議の結果は書面に取りまとめ、次の理事会で決議している」とのお答えがありました。このほか、「新任理事研修をどのように行っているか?」「職員とのコミュニケーションをどのように促しているか?」、「年齢制限を設けているか?」といった点について、参加者も交えて意見交換が行われました。

今回の3事例から共通して示された理事会改革・運営のポイントは、「経営層のみでなく事務局スタッフなど全員で考え実行すること」、そして「明確な意思を持ち実働する理事会を意識して作ること」、の2点でした。
どのような団体でもいつか直面する、理事会の見直し。どんな方針で、誰と一緒に経営を進めていきたいのか。しっかりと議論し準備をしていければ、団体の大きな飛躍に向けたチャンスになると言えそうです。