【開催報告】SRセミナー2018第1回 メガスポーツイベントの持続可能性+責任ある調達
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会が、持続可能性や人権に配慮した大会になるよう、関係者による様々な取り組みが進められています。
本セミナーでは、東京2020大会の責任ある調達に関する取り組みを、大会組織委員会の日比野佑亮さんよりご紹介いただき、それに対し、市民社会側の視点から、大会の調達の課題について、地球・人間環境フォーラムの坂本有希さんよりお話しをいただきました。
お二人のご報告の後、会場からは、専門的なご質問やご意見が多数出され、活発で有益な議論の場となりました。
〇キーノートスピーチ
「東京2020大会における持続可能性」
日比野佑亮さん(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 総務局 持続可能性部 持続可能性事業課長)
・ 持続可能性(サステナビリティ)とは、環境、社会、経済が調和することで持続的に発展する状態。
・SDGsなど持続可能な社会の実現が世界共通の目標となる中で、オリ・パラ大会でも持続可能性への配慮が必要。持続可能性への配慮は2012年のロンドン大会から導入され、2014年に策定されたIOCのオリンピックアジェンダにも「オリンピック競技大会の全ての側面に持続可能性を導入する」ことが明記された。
・東京2020大会の持続可能性コンセプトは「Be better, together」。主要テーマは、
①気候変動、
②資源管理、
③大気・水・緑・生物多様性等、
④人権・労働・公正な事業慣行等への配慮、
⑤参加・協働・情報発信。
・組織委員会では持続可能性に配慮した運営計画を策定し、様々な取り組みを行なっている。
・計画の実現に向けたマネジメント及びツールとして、ISO20121、報告書の作成、持続可能性に配慮した調達コードがある。
・調達コードのこれまでの進捗状況としては、2016年1月基本原則策定、6月木材の調達基準、2018年4月通報受付窓口設置、2018年6月持続可能性に配慮した調達コード第2版策定。
・調達コードの策定プロセスに当たっては、専門家も含めたWGで議論。ヒアリングやパブコメも実施し、多様なステークホルダーの意見を反映している。理想と現実を踏まえてどこまでできるかを考えながら作成した。
・調達コードの趣旨としては、調達するモノやサービスについて、原材料の採取から加工・流通・提供に至る供給過程全体で持続可能性が確保されるようサプライチェーンに求める事項をまとめたもの。東京都や政府機関にも大会関係の調達において尊重してもらえるよう働きかけている。
・調達コードの構成は、基準を示す、チェックする、通報受付の3本の軸。チェックの部分である「担保方法」をどの程度の力でやるかはバランスの問題。
・負のインパクトを与えるリスクが高い分野について優先的・重点的に対応することが効果的(リスクベースアプローチ)。
・問題が起こりがちなのはサプライチェーンの上流であるため、サプライチェーンへの働きかけも重要。サプライヤーとサプライチェーンが、コミュニケーションをとりながら調達コードの遵守に取り組むことが期待されている。
・持続可能性への取り組み状況を把握するために、サプライヤーやライセンシーにチェックリストの提出を求め、必要があれば個別の打ち合わせも実施。守れていない場合は、ペナルティではなく改善を求めていく。
・木材・農産物・畜産物・水産物・紙・パーム油については個別の調達基準も策定。パーム油の調達基準はオリ・パラでは初めて策定。
・調達コードに関わる通報受付窓口については、ロンドン大会を参考に作成。通報案件ごとに助言委員会を設置予定。ロンドン大会の通報案件では、海外の製造委託先における労働問題が指摘された。
「メガスポーツイベントと責任ある調達」
坂本有希さん 地球・人間環境フォーラム理事/持続可能なスポーツイベントを実現するNGO / NPOネットワーク(SUSPON)事務局長
・市民社会の視点からお話しする。SUSPONは18団体によるネットワーク。地球・人間環境フォーラムが事務局を担う。東京2020持続可能性部とのステークホルダーミーティングも実施。開かれたプロセス、横のつながり。フラットな対話、参加型、実践型活動によってSDGsに応えられる(東京)2020をレガシーにする。
・フェアウッドとは、伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材・木材製品。 責任ある調達、木材の調達基準を求めるもの。
・東京2020の調達基準がつくられたことを市民社会も歓迎している。しかし、その基準が守られていないのではないか?確認不十分なのではないか?という疑問を持っている。調達基準を掲げているにも関わらず、基準をクリアしないものが使われているのはなぜなのか。
・木材基準の見直しについては歓迎する動き。
・どこに問題があるのか。
調達基準3: 認証製品(FSC,PEFC,SGEC)であればOK。
調達基準4:そうでない場合はサプライヤーが確認。
公開情報では、基準4 においてマレーシアや インドネシアでのリスクが高い。
・NGOとしては、十分なデューデリジェンスを実施してほしい。例えば、インドネシアのコリンド社は 有明アリーナの工事に木材を提供。デューデリジェンスはなされておらず、合法性検証制度や認証制度が脆弱。
・また、説明責任が果たされていないことも問題。国産材の積極的な利用もなされていない。
・インドネシアの森林減少の原因の一端は日本にある。東京2020で変えていく必要がある。森林減少は80~90年代に盛り上がったテーマだが過去の話ではない。今でも毎年日本の4割に当たる面積の熱帯林が消滅。熱帯雨林の保護によりCO2も吸収される。期限付きの行動目標が必要ではないか。
・良い事例として、ワイスワイスさんの「4つの約束」、積水ハウスさんの「木材調達ガイドライン」を紹介。
〇質疑応答
Q: 東京2020の「持続可能性に配慮した調達コード」を、東京2020のレガシーとして、公共調達の中で活用してもらい中小企業等にも広げていくために、今後どのようなアプローチを考えているか。 また、通報受付窓口の概要は外国語に翻訳されているか。
A: 公共部門を含め、調達に関してどのような課題があるかの分析は行なった。現時点では
あまり良いアイディアはないが、今後、2019年春、2020年春・冬と報告書を作成する
中で、レガシーに対する取り組みについても盛り込んでいければと思う。
通報受付窓口概要について、現時点で英訳版は公開している。多言語化はされていない。
Q: インドネシアやマレーシア等リスクの高い地域でのエンゲージメントが必要なのではないか。サプライチェーンの上流と直接コミュニケーションをとるようなことはできないか?
A: タイで調達コードの説明をしたことがある。財政面から頻繁に行くことはできないが、そのような取り組みも試みていきたい。
Q: 建設現場では、二次三次下請け人たちがリスクを負いやすい。問題の発覚も難しく、調査にも手間とお金がかかると思われるが、対策についてはどのように考えているか?
A: 難しい問題だが、基本的にはサプライチェーンへの働きかけが大事と考える。
Q: 組織委員会の経験を省庁に戻られてどのように活かしていこうと思われているか?
A: 東京大会をきっかけに農林水産業界を変えていこうという流れはあると思う。国の施策として、認証を活用した農業の振興や、指導員の育成拡大などが進んでいると理解。水産エコラベルの広がりにも期待。
〇会場からの意見:
・チェックリストの策定は画期的だが、セルフチェックは難しく、監査をすることにより問題が明らかになるのではないか。
・調達コードが、自治体や国の基準に活かされていくことが望ましい。企業もチェックシートを作成しているが、○×の2段階のものがほとんど。4段階くらいでチェックをして、是正目標を出すようなアセスメントが活かされる形が良いと考える。
〇最後に一言:
坂本さん:SDGsでは目標15で、2020年までに「森林破壊ゼロ」を掲げているが、その達成への貢献という観点からは東京2020の木材調達コードは不十分ではないかと考えている。東京2020の持続可能性に関する取り組みには企業も期待している。
日比野さん:型枠工事を行う事業者の人にもヒアリングを行った。持続可能性に関する基準に基づいて型枠合板を調達することは初めての経験であり、勉強し、試行錯誤しながら、基準に合う合板を見つけて調達したとのことだった。こうした事業者の努力はきちんと評価すべきだし、新しい取組としてポジティブに捉えるべきと考える。
〇閉会挨拶:
黒田かをり NNネット/一般財団法人CSOネットワーク 事務局長・理事
東京2020のレガシーには、サステナビリティの普及や活用こそがふさわしいと思われるが、その具体的な戦略等についてはまだあまり議論されていない。東京2020の持続可能性への取り組み、調達コードの策定等の社会へのインパクトについてもレポーティングしてもらえるとよい。このような議論がサプライチェーンの上流と言われている海外の地域でもできると良い。
(文責:一般財団法人CSOネットワーク 長谷川雅子)