SRフォーラム2018 開催報告 ― SDGs/ビジネスと人権/NPO/NGOのSR オリンピック・パラリンピックと責任ある調達―
NPO/NGOにとっても企業にとっても、いま知っておくべきとても重要なテーマ「SDGs(持続可能な開発目標)」「ビジネスと人権」「オリンピック・パラリンピックと責任ある調達」「NPO/NGOのSR(NSR)」について、最新の状況をご登壇者から示していただいた後、参加者との意見交換の場としました。
〇第1部:トークセッション
SDGs市民社会ネットワーク理事・広報アドバイザー 長島美紀氏
SDGsジャパンは市民社会だけではなく他のセクターと連携した上で政策決定権者とも対話するという構造を目指している。それによって社会的なインパクトを生み出す。
そのためにはSDGsという言葉自体の認知度が上がることも必要。
オリパラはひとつの大きなターゲットになっている。例えば食事について言えばGlobal GAPの認証を求められる一方で日本型のGAP(J-GAP)が推奨されている。オリパラの問題ではなくG-GAPが取れないという日本の農業の実情・政策について考えるきっかけとなる。
オリパラがあるという「いいこと」を「誰一人とりのこさない」オリパラにするために、どのような声をあげる必要があるか。その声をあげる役割をCSOは担っていると考えている。
アジア・太平洋人権情報センター 特任研究員 松岡秀紀氏
人権尊重は何かをしようとするときの「やり方」(プロセス)の質の問題で、特別なものではなく、仕事の上での普通の課題として認識されるべき。ビジネス、オリパラの開催、NPO/NGO活動のいずれにも通ずるイシューである。
ジョン・ラギー ハーバード大学教授が中心となって策定された「指導原則」で「保護・尊重・救済」という基本的な枠組みが示された。ここでのキーワードは「人権へのマイナスの影響」に対する責任である。これまで企業の責任に言及されることが多かったが、国家にも人権を保護する責務がある。そこで指導原則に基づいて各国で国別行動計画(NAP)の策定が進んでいるが、日本でも策定を進めている。
オリンピズムの根本原則にも示されているように、オリパラを実施する主体には人権を尊重する責任がある。またNPO/NGOも、バリューチェーン、の中で人権を尊重しながら仕事をしているか、考えてみたい。
地球・環境人間フォーラム理事/持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク事務局長 坂本有希氏
国内外の森林資源を持続可能にしようというフェアウッド活動をしている。オリパラはフェアウッドを広める契機と考えている。東京大会に向けた基準策定の中では木材に関する調達基準がもっとも早く2016年6月に策定された。当初から国内外の44NGOから懸念・警告が示されていたが2017年、新国立競技場で違法伐採木材の使用が認められるに至った。このような動きから2018年5月に木材調達基準が見直されることが決定した。一連の中でNGOが指摘したのは、十分なデューディリジェンス、脆弱な制度への依存、説明責任の欠如、持続可能な国産材の積極的な利用の4点だった。
IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 川北秀人氏
すべての組織の社会責任のための国際ガイダンス規格ISO26000の7つの原則と7つの中核主題は、企業だけではなくNPO/NGOにとっても重要かつ非常に有意義である一方、実践できているだろうか。「労働」について、NPO/NGOで働く人にとっては、企業と同様の「正規か非正規か」という問題だけでなく、むしろ関心や専門性の深さゆえにダブルワークは十分想定できることでもあるため、体力的な負荷の配慮なども取り上げていきたい。
今日、特に重要なテーマは組織統治(ガバナンス)。公益法人や社会福祉法人なども含め、セクターを挙げて考え取り組みを進めたい。
〇第2部:フロアディスカッション
<SDGs>
SDGsの具体的な施策・ターゲットに落とし込んだ提案があまり出ていないという印象である。ただ、採択されて3年で11%の認知度は評価できるのではないかというコメントがあった。企業によるSDGsの活用もこれから深まっていくのではないか。そのように深まっていくに伴いセクターの連携が進み、仕組みのなかにSDGsが組み込まれていくと良いというコメントがあった。
<ビジネスと人権>
「人権」とは何かという捉え方がばらばらなので「難しい」と受け止められるのではないか、身近に捉えられるような共通言語として伝えられればというコメントがあった。障がい者の権利については、役職の高い人から障がい者の権利を無視したような発言があった場合への対応について話題があがった。障がい者自身から声を上げていくことの大切さ(「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing about us without us)」)も共有できた。
<オリンピック・パラリンピックと責任ある調達>
オリンピックの責任ある調達基準はあるが企業の中で実務に落とし込まれていない。長いSCの中でのチェックや検証ができていないということを確認した。誰のためのガイドラインなのかの理解が深まっていないのではないかというコメントがあった。企業であればその先に消費者がある。NGOが企業により責任ある調達を要求するだけではなく、消費者や購買者が責任ある調達を支持することが広がれば有効なアプローチになる。
<NPO/NGOのSR>
NPO/NGOや「いいことしている人たち」に対する外からの期待は大きい。クリーンなものとして見られている一方で、実情としては、その期待に応えられる状況ではないところもある。
ガバナンスはひとつのフレームではなく、組織にあったしくみをつくり、説明責任を果たせることが大切ではというコメントがあった。
最後に:コメンテーターより
黒田かをり(CSOネットワーク理事・事務局長/NNネット)
東京オリパラが持続可能性に配慮した大会を目指すことを高く評価しているが、社会的な合意や規範が十分にないところに、一気にサステナビリティが持ち込まれた感じがある。これはきちんと耕されていない畑にたねを播いているようなもので、根付くのには時間がかかる。ありたい姿を話す人と現状を話す人のギャップが大きい。とはいえ、NPO/NGOの働きかけもあり、少しずつだが着実に変わってきていることも実感できる。東京大会の調達は「持続可能性に配慮した調達基準」をベースに行われるが、モニタリングや問題があった場合の対応などもきちんと見ていかなければならない。
企業もSDGsへの対応を進めているが、NPO/NGOが長いサプライチェーンの中で困っている人たち、人権侵害にあっている人たちの声を代弁することで社会を変えていくということを実感している。
一方、NPO/NGOの中でもガバナンスが大きな問題になっている。最近、多くのNGOでセクハラ・パワハラに関するワークショップが開催されている。同じ思いをもって集まってできた組織であっても、ミッションを実現するにあたり組織ガバナンスやSRは重要になっていく。
白石 理(アジア・太平洋人権情報センター会長/NNネット)
東京でオリパラを開くことは、原発の悪影響は完全にアンダーコントロールとまで言って決められた。どうしてそこまでしてオリパラを持ってきたいのか。オリパラでは大きなお金が動く。オリンピックというのは開催地にとって何かよいものをもたらすのか。一部の人が儲けるだけではないか。リオ・オリンピックのあと、世界一大きいというリオのスラムに住む人たちにオリンピックによってよいことがあったかを聞くと、何もないという。オリンピックに立候補したものの取り下げた都市の中にパリがある。サステナビリティという観点から無駄が多すぎるという判断だった。そのように立ち止まって考えてみることが重要なのではないか。
今日の4つのトピックは社会で生きている人たちの幸せ=人権を満たすためということでつながっている。人権は、当たり前に要求できる、一人ひとりが持っている力だということを知る必要がある。