連続SRセミナー2017第3回「日本は持続可能な調達にどう取り組むか~ISO26000発行7周年記念セミナー~」開催報告

ISO26000発行から7年、持続可能な開発目標(SDGs)採択から2年、そして今年4月には持続可能な調達に関する国際規格ISO20400も発行されました。持続可能な開発・成長を、世界的にも、また、国内の各地域においても実現するために、企業はもちろん、行政(国・地方自治体)や市民は、持続可能な調達・購買をどのように進めていく必要や可能性があるのか。2017年11月21日(火)に開催された2017年度連続SRセミナー第3回では、4人のご登壇者からお取り組みをご紹介いただいた後に、軽食を交えながら、連携の可能性などについてご参加者とも意見交換していただきました。(文責:川北秀人)

持続可能な調達と消費に、消費者ができること

まず、サステナビリティ消費者会議代表の古谷由紀子さんから、持続可能な調達の実現・促進に向けて、消費者にできることとして、企業や政府、労働組合や市民団体などから情報を集め、買う・買わないを判断するとともに、意見を述べるといった、持続可能な消費の当事者としての役割があること。その実現のために、消費者団体では、自ら学習会開催、自治体や学校などでは消費者教育の実施、企業に対してはダイアログなどを通じた問題提起のほか、企業の取り組みへの調査・評価、消費者に対しては商品検索サイトによる選択の支援といったお取り組みを進めていらっしゃることをご紹介いただきました。

最近の力強いお取り組みの事例として、環境や人権などのNPO/NGOや消費者団体などによって2016年1月に設立された「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク」では、持続可能な開発、環境、消費者、人権・労働、社会、平和・非暴力、アニマルウェルフェアの7つの大項目から企業の取り組みを評価した「企業のエシカル通信簿」の第一弾として、加工食品・アパレル10社についての調査結果を2017年3月に発表。8月には、チョコレートやコーヒー豆など7品目について、商品や店舗を検索できる「ぐりちょ(Green & Ethical Choices)」を公開されていることをご紹介くださいました。

そして、今後に向けては、企業の社会責任への取り組みと消費者の行動を結びつけるために、食品ロスやプラスティックによる海洋汚染といった具体的な課題と解決のシナリオを提示すること、それを促すための協働取り組みやを協議の場を設けることや、情報や事例を共有するプラットフォームの必要性などをご提案いただきました。

サプライチェーン全体の働く人の権利を尊重するために

次に、日本労働組合総連合会(連合)経済政策局長の春田雄一さんから、グローバル時代の持続可能な調達の実現に向けて、サプライチェーンが長く複雑になったことにともない、児童・強制労働、安全衛生などへの取り組みをはじめとする企業が果たすべき社会責任の範囲も広がっていること、また、TPP11の大筋合意など、経済連携協定が進む中で、労働組合もサプライチェーン全体の働く人の権利尊重を働きかけていることについてご紹介いただきました。

具体的なお取り組みの事例として、スポーツ系アパレル企業では、2004年のオリンピック開催時に途上国での労働条件でNGOから抗議を受けたことを機に、145項目に及ぶCSR調達監査を導入。取引先が200社近くに及ぶため、実施の頻度・精度など実務に課題もあるものの、企業と労働組合が連携して取り組みを進めていること。同社をはじめとする日本企業3社が、労使の共同責任で社会責任を推進するための「グローバル枠組み協定」を締結していること。また、東京2020オリンピック・パラリンピック大会における「持続可能性に配慮した調達コード」に対しても、中核的労働基準をはじめとする労働に関する国際的な基準を遵守するよう提案していることなどをご紹介くださいました。

そして、今後に向けたお取り組みとして、危機的な状況に対する対応にとどまらず、能動的な取り組みが求められること、公契約に関する基本法や条例の制定の働きかけや、労働分野の資金運用にもESGの観点を織り込むことなどをご紹介いただきました。

サプライヤーによる取り組みも「見える化→点検→改善」で

続いて、株式会社デンソー広報部広報1室担当課長の粕谷知恵子さんから、連結売上約5兆円、調達額も約2兆円に及ぶ同社が進めてこられたサプライヤー(仕入れ先)に対する働きかけについてご紹介いただきました。

環境負荷削減をはじめとするCSRへの取り組みを先駆的に進めてこられた同社でも、ステークホルダーからの期待の高まりなどを受けて、2005年ごろからサプライヤーへのCSR展開に着手され、「仕入れ先様向けCSRガイドライン」を策定。配布して周知を働きかけるとともに、「安全・品質」「人権・労働」「環境」「コンプライアンス」「情報開示」「リスクマネジメント」「責任ある資源・原材料調達」「社会貢献」「仕入れ先への展開」といった項目について、各社の取り組みの状況を詳細に「見える化」し、エビデンスに基づいて「点検」するとともに、各社による取り組み事例の共有などを通じた「改善」を促し、2014年度までに国内外の1次取引先5000社以上に展開を完了され、さらに各社の取引先(同社の二次取引先)への働きかけを促していること。さらに、同種の要請が多様な国・地域や企業から寄せられることから、業界団体である日本自動車部品工業会(JAPIA)において情報交換を進め、業界標準づくりを働きかけ、ガイドブックやチェックシートを策定されたことなどをご紹介いただきました。

地域に根差した企業だからこそ「SDGsで稼ぐ、新しい働き方」

さらに、株式会社大川印刷代表取締役社長の大川哲郎さんから、明治14年に横浜で創業され、以来136年間にわたって積み重ねてこられた、環境負荷削減や地域貢献などCSRの多様な項目へのお取り組みをご紹介いただきました。

印刷業界におけるCSRにまつわる問題として、2008年の古紙偽装や2013年の大阪市内の印刷会社元従業員に対する胆管がん罹患者への労働災害認定、最近では、行政などからの受注に基づく納品後の知的財産権の二次利用に対する費用負担の問題などがあること。さまざまな環境ラベルが導入されている半面、揮発性有機化合物(VOC)を含まないnon-VOCインキの生産量は2013年時点で、全体のわずか1.7%に過ぎないことから、その正確な認知を進めたことにより、従業員にとっても働きやすい職場になったこと。SDGsに基づいたSR調達を顧客にも働きかけるために、「環境配慮印刷スペックシート」で仕様を詳細に伝えていること、などをご紹介いただきました。

同様の取り組みを、地域や業界にも広げるために、「横浜型地域貢献企業支援制度」の創設や、全日本印刷工業組合連合会(全印工連)において、日本初の業界団体によるCSR認定制度の創設などを働きかけられています。

NPO/NGOは、団体自らのNSRと、自治体におけるLGSRを促す

最後に川北から、NPO/NGOも、規模は小さいとはいえ、組織として事業・活動を営んでいる以上、企業などと同様に主体的に社会責任(NSR)を果たすべきであることから、他団体と連携して2012年に発足した「NPOの社会責任(NSR)取り組み推進プロジェクト」)の活動の経過とともに、自治体における社会責任(LGSR)への取り組みを促すために、13年にIIHOEが実施した「自治体における社会責任(LGSR)調査」に基づき、理解も実践も進んでいない実態などを紹介いたしました。

公共調達をはじめ、社会責任調達をどう進めるか

5人からの発題に続いて、ご参加者のみなさまには「印象に残ったこと」「連携が有効だと感じること」「確認・質問したいこと」を各自でご記入いただき、軽食を交えて、少人数で共有していただきました。

締めくくりの全体共有では、公共調達をはじめとする社会責任調達を進めるために、市民の理解や行動を促すとともに、企業や行政などに取り組みを促すための着手のきっかけとなる工夫も必要である、といったご意見が多く寄せられました。

以上

 

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