連続SRセミナー2017 第4回「ビジネスと人権~世界人権宣言70年、指導原則7年の中で~」開催報告

2017年度の連続SRセミナー第4回目は、「ビジネスと人権~世界人権宣言70年、指導原則7年の中で~」をテーマに、ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォームとの共催で、次のような趣旨で開催しました(2018年2月20日)。


ISO26000から8年を迎える2018年は、世界人権宣言の採択から70年、ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)から7年という年にあたります。日本でもビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の策定プロセスも始まっています。2017年連続SRセミナーの第4回では、さまざまなセクターから8人の方にご登壇いただき、ご自身の組織で実施している人権への取り組みや重要な人権課題、NAPに盛り込むべき内容についてご発題いただいたのち、セミナー参加者とも意見交換をする場としました。


セミナーにはさまざまなセクターから7名の方にご登壇いただき、リレー方式で【自組織の人権への取り組みについて】【重要だと考える人権課題について】【NAPに盛り込まれるべきと考える課題について】の3つの視点から語っていただきました。以下、そのサマリーです。

※ 今回のセミナーはチャタムハウスルールで行いましたが、各登壇者のリレートークでの発言部分については、ご本人の了解の上、誰の発言かがわかるかたちでまとめています。

※ 全体の司会・進行は、NNネット幹事団体の黒田かをり(CSOネットワーク)と松岡秀紀(アジア・太平洋人権情報センター)が行いました。

0 司会・進行(松岡)からの導入

指導原則が策定されてからこれまでの6年ほどの間に社会が大きく動いた。SDGsやパリ協定が採択されるなど、持続可能な社会に向けた世界的な合意が進み、ビジネスにおける人権尊重はそのなかで軸となっている。
この指導原則では「保護・尊重・救済」という基本的な枠組みが示され、人権への負の影響を及ぼさないビジネスが求められている。指導原則に法的拘束力はないものの、国家には人権を保護する義務があるとしていることから、各国での法制化の礎にもなっている。現在NAP(国別行動計画)を策定しているのは19か国。日本も策定を言明し政府が発表したSDGs実施指針でも明確に位置付けられた。
NAPガイダンスでは、各国がNAPを策定する際には、指導原則をベースとし、参画可能性と透明性があるプロセスを経て十分に協議されること、定期的に見直されることを不可欠のポイントとしてあげている。今回のようなマルチステークホルダーでの議論・協議の場が、より良いNAP策定に向けたプロセスになると考えている。

1 熊谷 謙一さん(日本ILO協議会 事業企画委員)から

【人権への取り組みについて】
1999年のILO中核的労働基準が柱となっている。2017年に多国籍企業に関する三者宣言が改訂され、人権デューディリジェンスも組み込まれた。こうした労働基準を組織が取り組む人権課題の柱として明確にしている。
【人権に関する重要課題について】
ビジネスと人権を社会に定着させるため、CSRの核心部分に位置付けることが重要と考えている。そのことによりNAPが策定されたのちも、企業を含めた労使関係で推進することができる。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
企業に対してCSRの中核がビジネスと人権であることを明記してもらいたい。また、マルチステークホルダーで運営と検証がなされていくことを定義してもらいたい。

2 杉本 茂さん(ANAホールディングス株式会社 コーポレートブランド・CSR推進部マネージャー)から

【人権への取り組みについて】
指導原則に沿って対応してきている。方針を作り、社員への啓発を行い、インパクトアセスメントを実施し、そこで抽出されたリスクに対応している。
【人権に関する重要課題について】
会社としては、苦情処理メカニズムを整えることが特に重要と考えている。個人的には、日本企業全体として、セクハラ・パワハラだけではない人権の理解の深化、情報の開示に対する意識の変革、日本における労働者不足に対する正面からの議論、外国人労働者を受け入れる土壌の整備の4点が重要と考えている。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
国に対し、海外情報の提供や相談窓口(苦情処理メカニズム)の整備支援等期待するが、企業(特に中小企業)での意識の醸成に特に期待する。なかでも、中小企業に対する働きかけこそ必須と考えている。

3 寺中 誠さん(東京経済大学 非常勤講師)から

【人権への取り組みについて】
国内人権機関の設立と活用を求めていく。
【人権に関する重要課題について】
日本社会に人権の考え方が根付いていないことが課題と認識している。例えば「貧困」の問題は「お金がない」という点に留まってしまうが、「必要な資金がなく、サービスにアクセスする権利がないこと」、社会から排除されることが大きな問題だと認識されないといけない。日本ではアクセスできない状況に対して恩恵で対応しようとしていることが、人権に裏打ちされたシステムに到達できない原因となっている。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
国内人権機関を設置すること。政策からもビジネスからも独立した国内人権機関がない状態でNAPを安易に作るべきではないと考えている。

4 長沢恵美子さん(一般社団法人日本経済団体連合会 教育・CSR本部統括主幹)から

【人権への取り組みについて】
2017年11月に改定した企業行動憲章で「人権の尊重」が条文として明記された。憲章の10カ条はつながっており、あらゆる企業活動において人権への配慮が必要になるというメッセージを発信している。実行の手引きには人権の理解・尊重、事業活動への反映、デューディリジェンス、人権が配慮される包摂社会に寄与することを盛り込んだ。
【人権に関する重要課題について】
まだ人権の範囲のとらえ方が狭い企業があり、人権への理解からはじめないといけない。サプライチェーンにおいて認証に頼った調達が進めば、その周辺に取り残される人々がでてしまう。そうした課題を解決するには、企業だけでは難しく、政府、NPO、消費者などさまざまな立場から社会構造を変えていくことが必要になる。

5 古谷由紀子さん(サステナビリティ消費者会議 代表)から

【人権への取り組みについて】
持続可能な消費に焦点をあて、人権問題に取り組んでいる。消費者の人権、他者の人権両面に配慮する行動の普及啓発をしている。
【人権に関する重要課題について】
企業にサプライチェーンだけではなく消費者も含めた人権という視点を持ってほしい。人権とは何かということを日本で突き詰めていく必要がある。消費者だけでなく企業と一緒に、互いの課題を解決していくことが重要。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
政策の一貫性をとってもらいたい。具体的には、人権に関する政策や仕組みを整えるにあたり既存の仕組みを活用することを期待する。NAP策定プロセスにおけるマルチステークホルダープロセスにも活用できる知見がすでにある。

6 堀江 良彰さん(特定非営利活動法人難民を助ける会 専務理事・事務局長)から

【人権への取り組みについて】
難民だけではなく海外の社会的弱者を支援するなかで自分たちの人権意識を高め、ガバナンスや活動自体に人権視点を盛り込んできた。
【人権に関する重要課題について】
特に海外駐在地で人権侵害が起こった際、対応を間違えると解決を遅らせることになってしまうことがある。事実認識や人間関係の中での対応に難しさを感じる。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
特に社会的弱者の視点を盛り込むことが重要と考える。

7 和田 勝さん(愛知中小企業家同友会 理事・政策委員長)から

【人権への取り組みについて】
①経営者が社員の人権実現に心を砕き実行すること、②人間尊重を根幹に置いた経営に取り組むこと、③基本的人権が実現される経済社会づくりに中小企業の立場から参画することに創立以来取り組んでいる。中小企業の経済的・社会的役割を明らかにした中小企業憲章の制定に尽力し、グローバル経済下でその内容を実現するため、ビジネスと人権についての学習を進めている。
【人権に関する重要課題について】
①中小企業個々の努力で対応できないことを、社会的課題として提起すること。②サプライチェーン全体の付加価値の公正な分配を実現すること。③大企業と中小企業の格差の原因を明らかにし、是正に取り組むこと。
【NAPに盛り込まれるべき課題について】
事業所の99.7%、雇用の7割を担う中小企業の声を聴き、取り入れるプロセスを設けてもらいたい。


7名のリレートークのあと、フロアも含めてディスカッション(質疑応答)を行いました。以下そのやりとりの概要です。

Q:人権に限らず権利と責任は裏表。誰もがどちらも持っていると思っている。例えばサプライチェーンのなかで大企業とサプライヤーの間で互いに何が理想と考えるか?

→ A:大企業とそのサプライチェーンを支える中小企業とは、共存共栄の関係と言える。現実的に、日本経済のサプライチェーンは中小企業によって支えられている。そのことをしっかりと認識し、大企業も高品質・コスト減を中小企業に求めるだけではなく、中小企業が適切な対応を取ることにより生じるコストを社会的コストとして、自らも負う責任があると捉える必要がある。

→ A:中小企業は自分たちの責任をきちんと知り、自らの経営姿勢を正さなければならない。自覚が足りない企業も確かにあるが、正しい経営を行う企業もある。中小企業をひとくくりで捉えず、正当に評価してもらいたい。その上で、正しい経営努力に見合った適正取引(価格、納期など)を実現するためにも、大企業と中小企業との相互理解を進めつつ、中小企業に正当な権利を認めて頂きたい。

Q:個社、中小企業団体、経団連、NAPとレイヤーがあるなかで、NAPを設ける意味やこれまでの取り組みへの影響は?

→ A:国によって事情がちがうなかで国別の行動原則を作るという国際合意には意味がある。日本では国家・政府の行動が顧みられなかった傾向があった。指導原則がないとしても人権侵害から保護する義務が国家にはある。また政府でなくてはできない分野もあり、そこへのコミットや認識が明確になっていくと考える。

Q:ステークホルダーの参加の仕方がわからない。どのステークホルダーが関わるかによって課題の洗い出しが変わってくる。各ステークホルダーがもっている権利である人権がテーマであることから参加についてのプロセスや課題も明らかにしてほしい。

→ A:NAPガイダンスにマルチステークホルダーでのプロセスを推奨しているが実際には難しい面もある。被害者をステークホルダーとしていれてもなお届かないステークホルダーもいる。
マルチステークホルダーはNAPにとって本当に大切。身についていかない。独立人権機関がないがなかなか実現できない。こうした難しさも常に意識していくことが重要。
人権機関の重要性はこれからも言われていく。既存の制度はあるが独立していない。独立させないといけない。誰かに代表性を求めてはいけない。マルチステークホルダープロセスはニーズの洗い出しのために様々な意見を引き出していく場という前提にしたらいいのではないか。

■ 最後に、アジア・太平洋人権情報センター(NNネット幹事団体)の白石理会長がまとめの発言を行いました。

NAPとは、ビジネスと人権に関する指導原則を実行していくときに、国が政策として取り組むことにほかならない。国が責任をもっていることをどういうかたちで実行しやすくするか、実行していることを確保していくか、である。ビジネスにおける人権尊重をどのように進めるべきかを考えるにあたり、人権に対する共通理解からコミットメントまでできる人は少ない。
「どのように」行うかは重要だが、それをアウトソースするのではなく、自身が理解・コミットした上で行うことが必要。日本は国家として人権方針を実質的に持っていない。また様々な主体が「隠す」体質を持っていて透明性が低い。そういう土壌であることを認識してNAP策定に着手しないといけないと考えている。

 

関連記事

ページ上部へ戻る